2023.01.17
CO₂排出量削減に向けて注目されるCCS・CCUSとは?基礎知識を解説
目次
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、世界各国においてCO2排出量を削減するための対策が進められています。CO2排出量を削減する方法には、「1.低炭素化技術や再生可能エネルギーなどを導入することでCO2の排出量自体を減らす」方法、もしくは「2.排出されたCO2を回収して大気中のCO2濃度を増加させない・減少させる」方法があります。
この記事では、2つ目の「2.排出されたCO2を回収して大気中のCO2濃度を増加させない」方法をテーマに、回収技術が求められる背景と、近年注目されているCCS・CCUSという概念について解説します。
CO2排出量削減に向けた技術「CCS・CCU・CCUS」とは
CO2の回収および処理技術にはいくつかの種類があります。ここでは、CO2を回収・貯留する「CCS」技術、回収したCO2を活用する「CCU」技術、そしてCO2を活用すると同時に貯留する「CCUS」技術、この3つを順番に紹介していきます。
CO2を回収・貯留する「CCS」
まず最初にご紹介するのは、CO2を回収し地下に貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture & Storage)」技術です。CCSは、CO2排出量を大規模に削減できる技術として、早い段階から関心が寄せられてきました。
1996年にノルウェーのSleipnerで、年間100万トンのCO2を圧入する大規模なCCSプロジェクトがスタートしたことを皮切りに、アルジェリアや米国、カナダ、オーストラリアなどの国々でさまざまな規模の実証および商業プラントが建設されてきました。日本では2012年から苫小牧で国内初の大規模実証プラント建設が始まり、2016~2019年に累計30万トンのCO2圧入に成功しています。
上の図はCO2の回収〜貯蓄のCCSのフローを示しています。
まずは発電所やセメント工場、化学プラントなどから出るCO2を含むガスをCO2回収設備に引き込み、CO2を分離・回収します。次に回収したCO2を圧縮機で昇圧し、CO2の貯留に適する場所までパイプラインで輸送します。
輸送の後、圧入井(あつにゅうせい)と呼ばれる井戸から地下にCO2を圧入し、CO2を地下深くに隔離していきます。貯留には帯水層や枯渇した油田・ガス田などが適していますが、日本にはそのような候補地が少ないという課題もあります。
(参照:Global CCS Institute「The Global Status of CCS: 2013」)
回収したCO2を活用する「CCU」
CO2を回収・貯留するCCSに加え近年注目されているのが、回収したCO2を活用する「CCU(Carbon dioxide capture & utilization)」技術です。(表下部分)
CCU・CCUS技術はCO2を資源(有価物)と再定義し、燃料や肥料、プラスチック、鉱物等の製造に利用しようとするものです。たとえばCO2と水素を反応させると、都市ガスの主成分であるメタンを合成できます。さらにメタンからメタノールやエタノールを経由して、ガソリンやジェット燃料などの輸送用燃料を製造することができます。またCO2を尿素や高分子の原料にすることで、肥料やプラスチックなどの私たちの生活に欠かせない製品を生み出すことも可能です。
これらの製品が消費されて焼却されるとCO2が再び排出されますが、CCUによって生成された原料を用いるため、従来使われるはずだった化石燃料や化石資源由来の原料の使用量は削減されています。つまり、CO2の排出量削減に貢献することができるのです。
(参照:経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ改訂版」)
CO2を活用すると同時に貯留する「CCUS」
CO2を活用すると同時に貯留することを「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization & Storage)」技術と呼びます。CCUSもCCUと同じく、CO2を資源として活用していく方法の1つです。
CCUS技術にはさまざまな方法がありますが、そのひとつに、CO2を活用する「原油増進回収法=EOR(Enhanced Oil Recovery)」が挙げられます。この方法ではCO2を油田に圧入することにより原油の産出量を増大できるのに加え、圧入したCO2の一部は地下に貯留されるため、CO2の活用と貯留を同時におこなうことができます。 CO2-EORのCO2貯留効果はとても大きく、IEAの試算によると2050年までの期間に1,900億~3,800億バレルの原油を増産しつつ、600億~3,600億トンものCO2を貯留できる計算になります。
(参照:International Energy Agency「Storing CO2 through Enhanced Oil Recovery」)
また原油増進回収法と同様に、CO2を炭酸塩に転換する「鉱物化技術」も社会実装に向けた研究が進んでいます。鉱物化技術は、炭酸塩をコンクリートやセメントの材料に使うことでCO2を固定化し、CO2の排出量削減に繋げる方法です。
CCS・CCUSが必要とされる背景
長期的なCO2排出量削減への取り組みの中で、CCS・CCUSは、特に重要な技術として位置づけられています。以下の図は、国際エネルギー機関(International Energy Agency)の報告書「World Energy Outlook 2021」におけるシナリオ別CO2回収量の見通しを示しています。
国際エネルギー機関が発表している、2050年にCO2排出量ネットゼロを実現する「ネットゼロシナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario)」では、CCS・CCUSにより回収・削減する必要のあるCO2は、年間76億トンとされています(2050年時点)。2020年の世界のCO2排出量が年間340億トンであったことから見ても、CCS・CCUSに期待されている役割の大きさが分かります。
一方、各国政府が公表している「温室効果ガス排出削減計画に基づく公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)」では、CCS・CCUSが十分に活用されておらず、CO2回収量の推定も低数値に留まっていることが懸念されます。CO2排出量ネットゼロの目標に向かうためにはCCS・CCUS技術いおける課題を乗り越え、各国が認識を揃えながら社会実装を進めていくことが重要です。
CCS・CCUS技術の現状と課題
CO2削減に向けて活用が期待されているCCS・CCUS技術には以下のような課題もあります。
利益が発生しないため、モチベーションが生まれにくい
CCSは気候変動に対する取り組みの1つであり、それ自体は利益を発生させず、国や企業にとっては「追加コスト」という位置づけです。そのためCCS実施に対するモチベーションが生まれにくいことが課題となっています。そこでノルウェーやカナダなどの諸外国では、補助金の交付や炭素税の免除などを柱とし、CCSの実施者にインセンティブを与える取り組みをおこなっていますが、現時点では、私企業がビジネスとしてCCS事業に参入できる環境が整っているとまではいえないかもしれません。
CCUS普及へのハードル
そこでCCSの経済性を改善する、CCUSへの期待が高まりますが、CCUSの普及は進んでいるのでしょうか?実はCCUS技術の1つである「CO2-EOR(原油増進回収法)」の実施例は、現時点ではほとんどが北米に偏って存在しており、これは北米の一部を除いた地域には「CO2を輸送するインフラ(CO2パイプライン)」が整備されておらず、実施が難しいことが原因の1つです。
また現在のCO2-EOR事業は原油の増産を目的としているため、CO2の漏えいに十分な注意が払われていません。CO2-EOR事業が真のCCUSとして認められるためには、圧入したCO2が確実に地下に留まっていることを監視するという仕組みも必要です。
技術の確立の必要性
さらに、CCS・CCUSに共通する課題の1つとして、より安価かつ効率的にCO2を回収できる技術が十分に確立されていないことも挙げられます。代表的なCO2回収技術として知られている「化学吸収法」は、発電所の排ガスからのCO2回収に実績があります。現状1トンのCO2を回収するためには4,000円程度のコストと約2.5GJ(ギガジュール)のエネルギーが必要ですが、このコスト及びエネルギーの低減と、更なるCCS・CCUSの普及を目指して日本を含めた世界各国の企業や研究機関が、新しいCO2回収技術の開発を進めています。
(参照:経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」)
また最近では、こうしたCO2回収の課題を解決するため、固体吸収法や膜分離法などの新しい技術の開発も試みられています。
まとめ
今回の記事では、CO₂排出量削減目標に向けて注目を集めるCCS・CCU・CCUS技術の基礎知識と現状について解説しました。 そのなかでも、CO2を回収するCCS、活用し貯留するCCUSは、CO2排出量の削減ロードマップにおいて大きな役割を担っています。 皆さまのご参考になれば幸いです。