2023.04.18
NUCLEAR POWER SMR PROJECT 〜脱炭素の鍵となる次世代原子炉〜
目次
昨今、気候変動の原因の一つとされる温室効果ガスの排出を“実質ゼロ”にする「カーボンニュートラル」の実現に向けて、世界各国で取り組みがおこなわれています。そのカギとして再生可能エネルギーなどに注目が集まっていますが、発電の際にCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして、原子力発電の分野では革新的な技術開発が進められています。
現在の原子力分野において求められているのは発電だけでなく、「風力・太陽光など再生可能エネルギーとの併用」や「作り出した電気や熱による水素製造」といった多様なニーズに対応できる、次世代型の原子力技術の開発です。今回はその代表的な事例の1つである「小型モジュール原子炉」についてご紹介します。
小型モジュール原子炉(SMR)とは
現在、世界で実用化が進められている「小型モジュール原子炉」は、「Small Modular Reactor」の頭文字を取り、「SMR」と呼ばれています。
経済産業省が2021年に発表した「第6次エネルギー基本計画」でも、2030年の電源構成における原子力の比率は20~22%程度を見込まれており、原子力の活用については以下のように記述されています。
“2050年カーボンニュートラルを実現するために、再エネについては、主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組み、水素・CCUSについては、社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。”
(引用元:経済産業省「エネルギー基本計画の概要」)
この具体的な取り組みの1つとしても、SMRの技術推進と実証が挙げられていますが、では一体、SMRはどのような点で優れているのでしょうか。
SMRと大型炉を比較した図
「SMR」のメリット
「SMR」のメリットを運用するメリットは、主に以下の4点です。
安全性の高さ
安全な原子炉の運転では、高温となる炉心を常に冷却できることがカギとなります。SMRでは大型軽水炉の炉心冷却に使用するポンプや、非常用ディーゼル発電機が不要であり、受動的に安全を確保する仕組みによって事故のリスクを低減するのが特徴です。
NuScale社のSMRの場合は原子炉がプールの水に浸かっているため、事故時において、大型炉のように「冷却するための水を外部から送り出すポンプ」がなくても、30日間はこのプールの水で冷却することが可能です。
その後は崩壊熱も下がっているため、プールの水が蒸発した後でも、空冷によって半永久的に炉心を冷却し続けられる構造です。
ほかにもNuScale社 SMRは、放射性物質の放出を防ぐ大型炉5重の多重防護より多い7重の壁にて、放射性物質を”閉じ込める”面での安全性も向上しています。なお、NuScale社のSMRは、その安全性の技術要件を満たす次世代炉として、米国原子力規制委員会から「設計認証」を取得しています。
再生可能エネルギーとの調和
脱炭素化の動きが世界的で進むなか、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの需要が増加しています。しかし、これらの発電方法は天候や環境などに左右されるため、安定した電力供給が難しいことが課題ですが、発電供給量を柔軟に調整する運転モードを備えたSMRは、「再生可能エネルギーの変動電力を調整する役割」としても期待されています。
建設コスト削減&場所を選ばない
従来のような大型の原子炉を建設する際は、天候等外的要因に左右される現場での作業となるため、建設作業と品質管理に多くの時間と労力がかかっていました。
一方、小型化されたSMRの場合は設備や部材の大半を標準規格化し、品質管理が行き届いた工場で製作します。そして船やトラックで運ぶことができる最大の大きさまで「モジュール組み立て」をおこない、現場に運び込んで設置します。現場での組み立て作業を最小限にすることで品質管理を容易にし、工期短縮やコスト低減の実現が期待されています。
石炭火力発電所の跡地を活かせる
脱炭素に向け、石炭火力の比率を減らしていくことも目標の一つとして挙げられています。 石炭火力の跡地に従来の大型原子炉を建設しようとすると、炉の大きさや送電量から、専用の施設を建設する必要があり、そのための設備投資コストも必要です。しかし、小型のSMRは既存の石炭火力発電所の跡地に設置が可能であり、発電量が石炭火力と同等であることから、周辺設備や送電線をそのまま利用することができます。
「SMR」の課題
もちろん「SMR」にはメリットだけではありません。
一般的に、原子炉は小型になると発電単価が高くなるといわれており、SMRは従来の大型炉よりキャパシティを小さくした分、スケールメリットが下がり「経済性の観点」で弱点があるという指摘があります。
NuScale社のSMRについては以下より経済性の向上が見込める予測となっています。
- モジュール化・工場製作(サイトでの建設作業の単純化と工場での先進製作技術の適応)
- 設計の単純化(受動的安全性の採用および炉心小型化に伴う省設備化)
- 設計の標準化
- 繰り返し効果による習熟効果
また従来の大型原子炉のように、使用済み核燃料の処理は、依然として必要です。最も適切な方法として国際的な共通認識におかれているのは、地下深くの安定的な地層の中に埋める「地層処分」です。2020年3月時点では下記の通り、フィンランドとスウェーデンで処分地の選定が完了しました。
フィンランドで選定されたのは「オルキルオト」という地域で、すでに最終処分施設の建設が開始されており、2025年頃の稼働を目指しています。
一方、日本は地震大国であり、フィンランドなどと同様の処理方法は適用が難しく、今後も適切な処理方法を模索していくことが求められます。
米国初のSMR発電プラント建設プロジェクト
日揮グループは2021年4月、SMRの開発を行う米国・NuScale社に出資をおこないました。
NuScale社で開発中のSMRは、2023年現在SMRとして唯一、米国原子力規制委員会(NRC)で安全設計認証を受けており、従来大型軽水炉の出力が1,000MW程度であるのに対し、NuScale社SMRの1モジュールの出力は77MWです。顧客ニーズに合わせて設置・稼働させるモジュール数を4基、6基、12基の3種類より選択できるプラントラインナップを用意しています。
米国アイダホ州で計画されている、米国初となる「NuScale SMR発電プラント」のEPCプロジェクトへの参加を開始しており、米国Fluor社と協業で2029年の運転開始を目指しています。
まとめ
現在は化石燃料から、水素、アンモニア、再生可能エネルギーといった「CO2を排出しないエネルギー」への転換が進んでいますが、そのうちの1つが今回ご紹介した「SMR」です。
2050年までに世界で必要となる新規電力容量約4,900GWのうち、約230GW(約5%)はSMR市場が占める見込みです。 脱炭素と安定した電力供給の双方を両立させるためには、CO2を排出しない原子力発電の安全的な利用についても考慮する必要があるかもしれません。皆さまの参考になりましたら幸いです。