2022.05.27
【4つのメリット】カーボンニュートラルに企業が取り組む理由とは?

目次
気候変動による自然災害や食料問題が深刻化する今、環境問題の解決に向けた取り組みをおこなうことは企業が存続するために不可欠な要素となっています。それはたとえば、カーボンニュートラル*への取り組みなどです。(*温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)
そこで今回は、企業が「カーボンニュートラル」に取り組む意義と、具体的な事例、取り組みを実際に進める手順などをわかりやすく解説します。
【4選】カーボンニュートラルに企業が取り組むメリット
はじめに、企業がカーボンニュートラルに取り組むことで得られるメリットを解説します。
エネルギーコスト削減につながる
企業がカーボンニュートラルに取り組むことは「エネルギーコストの削減」につながるでしょう。
例えば、太陽光で発電した電気を自分で利用する「自家消費型太陽光発電」を導入すると、事業に必要な電力を自社で賄えるようになります。設置・維持に管理コストはかかりますが、電力は企業にとって必要不可欠であるため、それを自社で賄えるようになることは大きなメリットといえそうです。
企業姿勢への評価向上につながる
経済産業省では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて具体的な取り組みを進めている企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」としてリスト化ながら公表しています。
こうした取り組みの実績は各種メディアに取り上げられたり、自治体や団体などから表彰を受けたりする場合もあります。環境問題への取り組みが広く人々の目に触れることは、企業努力を示し、信頼感や評価を高める契機になり得るともいえるでしょう。結果として企業の評価向上につながるかもしれません。
ステークホルダーからの信頼獲得につながる
環境課題に取り組む先進企業として認知・評価されることは、様々なステークホルダーからの信頼獲得にもつながります。投資家からの評価が上がったり、社員のモチベーション向上につながる可能性があるだけでなく、就職・転職活動において、「企業の社会課題への取り組み」を重視する人も増加傾向にあります。人材獲得にあたっても強い武器となる時代ともいえるかもしれません。
ほかにも、カーボンニュートラルに取り組む別企業や別団体との連携が生まれ、情報の共有や技術提携から、さらなる効果的な取り組みにつながることも期待できます。
新たなビジネスチャンスにつながる
カーボンニュートラルに取り組むことにより、様々な企業・団体との連携が加速すると、自社のノウハウだけでは実現できなかった新たなビジネスに着手できる可能性が生まれます。結果として事業領域が拡大すれば、自社の収益アップも見込めるかもしれません。
また、カーボンニュートラルによって削減・吸収した温室効果ガスをクレジット化し、ほかの企業へ販売することで収益が得られる制度(カーボンクレジット)もあります。制度への取り組みをおこなうことはビジネスチャンスにつながるだけでなく、社内での環境意識への高まりにつながるでしょう。
社内でカーボンプライシングのワーキンググループを立ち上げてみた~第2回~「事業開発の当事者」だからこそ気付けるワーキンググループの良さとは? | サステナビリティ ハブ
中小企業でもカーボンニュートラルに取り組める?
中小企業としては「資金力やノウハウに乏しいと、具体的な取り組みは難しいのではないか」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし前章で解説した4つのメリットは、中小企業にも当てはまるものです。
環境省の「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」に掲載された事例も参考に、できることから取り組みを始めてみましょう。
以下は、中小企業の資金確保やノウハウ獲得に役立つ施策・サービスです。
様々な補助金制度を活用してみよう
カーボンニュートラルの実現に向け、国は補助金制度を運用しています。
例えば経済産業省が設けた「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」では、企業がオフィスや工場などに省エネ設備を導入する際に、【最大2分の1の費用】を補助しています。
また環境省では「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」を実施しています。これはCO₂排出量50トン以上、3000トン未満の工場などを保有する中小企業に対し、「脱炭素化促進計画」の策定を支援しているものです。計画に基づく脱炭素エネルギーへの転換や運用改善、設備更新などに対しては【最大2分の1の費用補助】をおこなっています。
ほかにも様々な補助金制度が運用されており、事業内容や導入する設備によっては複数の補助金を併用できる場合もあります。公的機関のホームページなどを参考に、補助金制度を活用してみてはいかがでしょうか。
無料の相談窓口や省エネ診断を利用してみよう
カーボンニュートラルの実現に向けたノウハウを持ち合わせていない企業に対しては、国や団体が情報提供・アドバイスをおこなっています。
経済産業省や財団法人が運営する「省エネ・節電ポータル」では、省エネ削減率などをチェックできる自己診断ツールを提供しています。さらに専門家が、効果が見込める具体的な施策や方法を提案する「再エネ適正化診断」もあります。
また独立行政法人 中小企業基盤整備機構は、中小企業・小規模事業者に向け、カーボンニュートラルや脱炭素化について無料で相談できる窓口を設置しており、省エネ対策の情報や環境経営に関するアドバイスを提供していますので参考にしてください。
【業種別】カーボンニュートラル実現に向けた、企業の取り組み事例
カーボンニュートラルの実現に向けて、企業ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。ここでは6つの業種別に、実際の取り組み事例を紹介します。
【住宅】新規物件の環境性能向上
住宅メーカーでは、環境性能を向上させた「ZEB(net Zero Energy Building)」および「ZEH(net Zero Energy House)」の施工・標準化が加速しています。(参考:環境省「ZEB PORTAL」https://www.env.go.jp/earth/zeb/index.html)
ZEBとはビルや住宅のエネルギー消費量の収支がゼロとなることを目指した建物のことです。
高断熱性能と高性能設備で、屋内環境の質を維持しながら大幅な省エネルギーを実現することができます。「2020年までに自社で受注する住宅の50%以上をZEHにする」と宣言した “ZEHビルダー” は、令和2年時点で約7,600社にのぼります。
【鉄道】省エネルギー車両や駅舎設備の導入
ある鉄道会社では、「省エネルギー車両」の実現に向けた取り組みが進められています(鉄道車両本体の軽量化や回生ブレーキ・LED照明の導入など)。
また、駅舎でも照明をLEDへ切り替えたり、省エネ効果を発揮するエレベーター回生電力の利用、ヒートポンプ式給湯器などを導入しています。そして可能な限りCO₂排出量を削減した上で、どうしても排出されてしまう分をオフセットし、排出量を全体でゼロにする「カーボン・ニュートラル・ステーション」を誕生させています。
【物流】電気自動車(EV)の導入
物流および運輸業は、CO₂の間接排出量が産業部門に次いで「2位」とされており、カーボンニュートラルの実現に向けた改善が課題です。
そこで、物流センターから顧客先までの運輸を担う「ラストワンマイル」の車両をすべて、CO₂を排出しないEVに切り替えることを決定した企業もあります。
【製造】CO₂を資源へ転換する
産業部門のCO₂間接排出量は全体の3割以上を占めており、排出削減に向けた改善が欠かせません。
しかしモものノを作る製造過程において、CO₂をはじめとした温室効果ガスの排出をゼロにすることは容易ではないでしょう。そこで工場から排出されるCO₂を回収し、その他の物質との化学反応によって新たな素材を生み出し、資源として再利用する取り組みなどが始まっています。
【エネルギー】カーボンリサイクルの実現に向けた取り組み
化石燃料の利用に伴うCO₂の排出を抑制し、CO₂を貯留や有効利用する「カーボンリサイクル(CCS・CCUS)」の実現に向け、エネルギー業界でも積極的な取り組みがおこなわれています。
CO₂分離・回収プロセスの技術や水素エネルギーキャリアとしてアンモニアを利用するための技術開発など、各種研究開発が進められています。

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの進め方
カーボンニュートラルの実現に向けて、実際に自社で具体的な取り組みを推進していくためには、どのような手順を踏めば良いのでしょうか。今回は中小機構が提供する情報を参考に、4つのステップに分けて取り組みの進め方をご紹介します。
1.現状を把握する
中小機構では、カーボンニュートラルの取り組みの具体的手順を示した「カーボンニュートラル・チェックシート」を公開しています。まずはチェックシートにある「現状把握(認識・知識)」の項目をもとに、エネルギーの種類別使用量や年間のCO₂排出量などの現状を把握しましょう。
また自社だけでなく、サプライチェーン全体としてのCO₂排出量を把握しておくことも重要です。環境省では「算定時の参考資料」として算出方法やガイドラインも公開しているため、参考にしてみてください。
2.取り組みにまつわる制度や他社事例を知る
カーボンニュートラルの実現に向けて様々な取り組みを検討するうえで、補助金や外部診断などを受けられる場合もあります。「温室効果ガス審査協会」「環境共創イニシアチブ」などのホームページを参考に、自社で利用できる制度を確認しておきましょう。
また他社が「どのような事業においてどのような取り組みを成功させているのか」など、事例を把握して参考にするのも有効な手段です。
3.専門家に相談する
現状把握と情報収集が完了したら、自社に最適な施策や取り組み内容について、専門家に相談してみましょう。「省エネ・節電ポータル」内にある省エネ適正化診断や、中小機構が運用している無料相談窓口などを活用してみてください。
4.計画や方針を策定する
最後は専門家のアドバイスや環境省ホームページの「他社の目標設定事例」などを踏まえ、最終的に自社がとるべき対策や方針を決定します。
まとめ
企業がカーボンニュートラル実現に向けて取り組むことは、いまやコスト削減や社会貢献の意味合いにとどまらず、ステークホルダーからの信頼を得て企業として存続していく上で不可欠なものとなっています。
他社事例や関連制度、支援サービスなどを活用し、できることから取り組みを始めてみましょう。