「ヒヤリハット」の重要性とは?業界別の事例や対策方法を紹介

「ヒヤリハット」の重要性とは?業界別の事例や対策方法を紹介

目次

    作業現場では、重大な事故に発展する可能性があった「ヒヤリハット」と呼ばれる事案が発生することがあります。ヒヤリハット事例を組織で共有し、対策を練ることは、重大事故の発生を未然に防ぐことにつながります。この記事では、ヒヤリハットの重要性や原因、事例、対策について紹介します。

    ヒヤリハットとは

    ヒヤリハットとは、「事故には至らなかったものの、ヒヤリとした、ハッとした事例」を指す造語です。

    「ハインリッヒの法則」から見えてくるヒヤリハットの重要性

    ヒヤリハットの重要性を端的に示しているのが「ハインリッヒの法則」です。ハインリッヒの法則とは、米国の損害保険会社の安全技師であったハーバード・ウィリアム・ハインリッヒが5,000件以上の事故調査から導き出した法則です。

    「重大事故1件の背後には29件の軽微な事故が存在し、さらにその背後には300件の異常が存在している」というもので、「1:29:300の法則」とも呼ばれています。災害の背後には危険有害要因(行動、状況など)が数多く潜んでいることを指摘したこの法則は、「現場の安全を確保するには、ヒヤリハットの背後にある危険有害要因に対処しておく必要があること」を示唆しています。ヒヤリハットからの学びを得ることにより、安全性を高めていく組織文化を醸成していくことが大切です。

    ヒヤリハットが発生する原因

    作業現場におけるヒヤリハットの発生には、いくつかの原因が考えられます。対策を適切に講じるには、主な原因を把握しておくことが大切です。

    5Sの不徹底

    1つ目の原因は「5S」が徹底されていないことです。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5項目のことを指します。点検の不徹底や安全装置の欠落など、基本的な事項が守られていないことにより、危険な状況で作業がおこなわれているケースは少なくありません。

    5Sの不徹底が放置される原因としては、教育が十分におこなわれていないことや、現場でのルールが適切に定められていないことなどが挙げられます。たとえば、現場に道具や資材が散乱しているような状況は、ヒヤリハットにつながる直接的な原因となりかねません。

    ヒューマンエラー

    2つ目の原因はヒューマンエラーです。「いつもやっているから大丈夫だろう」という慣れや過信から安全な作業手順やルールを守らなかったり、思い込みで行動したり、「これくらいなら大丈夫だろう」と無理な作業をおこなったりしてしまう人間の特性(ヒューマンファクター)が、ヒューマンエラーを引き起こします。そのため、失敗した人を責めるのではなく、失敗の原因となったヒューマンファクターを見極め、失敗しにくい作業環境を整えていくことが重要です。

    現場でのコミュニケーション不足

    3つ目の原因は、現場でのコミュニケーション不足です。関係者間でのコミュニケーションが充分に図られていないことにより、必要な作業やその流れが正確に理解されておらず、ヒヤリハットの発生につながる恐れがあります。

    ヒヤリハットは労働災害クラスの事案とは異なり、報告義務がありません。そのため、現場監督が過去の事例を把握しておらず、類似のケースを繰り返していくうちに重大な事案に発展する可能性があります。現場において適切にコミュニケーションを図り、必要な情報を共有していくことが重要です。

    ヒヤリハットの事例

    ヒヤリハットの具体的な事例を見ていきましょう。労働安全衛生総合研究所が運営する「職場の安全サイト」には、2024年4月26日時点で計441件の事例が紹介されています。ここでは、具体的なヒヤリハット事例を業界別に紹介します。

    製造業での事例

    事例1:アルカリ液による火傷のおそれ

    70〜80℃のアルカリ液が容器内に残った状態で排出弁を開けたところ液が抜けなかったため、作業員が長さ1.5mの棒で突いて液を抜こうとしました。すると残液が突然排出されたため、作業員は右脚に火傷を負うところでした。本来は容器の内圧が下がったことを確認した上で、保護衣や保護メガネ、手袋などを着用しておこなう必要がある作業です。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(有害物との接触) (mhlw.go.jp)

    事例2:機械への巻き込みのおそれ

    製麺機の清掃を行う際、機械を運転させたままの状態で実施したため、カット箇所に指を挟まれそうになりました。本来は製麺機を完全に停止させ、電源を切った状態で清掃作業をおこなわなくてはなりません。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(はさまれ・巻き込まれ) (mhlw.go.jp)

    事例3:暖房用ジェットヒーターからの引火

    工場内にて休憩中、暖房用のジェットヒーターを作業員が背後に設置して暖を取っていたところ、作業着に引火しました。火はすぐに消し止められたため、火傷を負わずに済んでいます。暖房機に接近しすぎたこと、目視できない背後に設置していたことが主な原因です。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(高温・低温の物との接触) (mhlw.go.jp)

    建設工事現場での事例

    事例1:クレーン車から降車する際の転倒

    ラフテレーンクレーン*から作業員が降車しようとした際、運転席でつまずき転落しそうになりました。降車の際には手すりをしっかりと握るとともに、クレーンのステップに背を向けずに降車しなければなりません。
    *ラフテレーンクレーン:自走式クレーンの一種で、走行とクレーン操作を1つの運転席でおこなえるのが特徴。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(墜落・転落) (mhlw.go.jp)

    事例2:資材の搬入作業における積み荷の倒壊

    給水ポンプユニットを運送中に台車の車輪位置を変えようとしたところ、積んでいた給水ポンプユニットが倒れて作業員が下敷きになりかけました。重量物を運送・設置する際には、作業方法を十分に検討するとともに、運搬物の形状に適した台車を使用しなければなりません。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(崩壊・倒壊) (mhlw.go.jp)

    事例3:足場解体作業中に足場材が崩落

    ビルの屋上に平面上に設置した足場解体作業中、足場材を誤って落下させてしまいました。落下した足場材が歩行者に接触することはなかったものの、地上まで落下しています。本来は落下防止ネットを適切に設置し、屋上から物が落下するスペースをつくらないようにする必要があります。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(飛来・落下) (mhlw.go.jp)

    プラント現場での事例

    事例1:作業中の転倒のおそれ

    プラント点検中、グレーチング(網目状の蓋)上を通行したところ、グレーチングが固定されておらず上に乗った作業員が足を取られて転倒しそうになりました。グレーチングの取り外し作業を実施した際には、作業後にグレーチングが固定されているか確認する必要があります。
    (出典: 広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編事例54

    事例2:確認漏れによる事故のおそれ

    プラントの反応塔の下部に転落防止用の防護網を設置していたところ焼却前に外し忘れ、砂がガス化炉低部へ抜けず、点検中の不燃物排出装置へと逆流してしまい、重大な事故を引き起こしかけました。防護網の設置に関する申し送りと、焼却開始時に防護網を取り外したことを確認するための指差し呼称が徹底されていなかったことが原因と考えられます。
    (出典:広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編 事例56」

    事例3:機材の破損による事故のおそれ

    ガス切断機のバルブを開けた際、ガス漏れと思われる音が聞こえたため確認したところ、レギュレータとホース結合部分が破損していたことがわかりました。前回使用した作業者がガス切断機を転倒させた事実を自己申告しなかったことが原因とみられます。
    (出典:広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編 事例59」

    ヒヤリハット対策

    幸いにも事故にはなりませんでしたが、上記の事例はともすれば重大事故になりかねないヒヤリハットです。災害防止のためには、このようなヒヤリハットを把握して対策を立てることは不可欠ですが、一方で日常業務が煩多であるとそこに手が回らなくなることが懸念されます。
    そこで、重大事故を未然に防ぐためにヒヤリハットを収集する方法を紹介します。

    ヒヤリハット報告の仕組み化

    ヒヤリハット対策を講じるためには、過去の事例を把握し、原因を特定する必要があります。そのため、ワークフローシステムの導入や報告書の活用など、現場からヒヤリハット事例を報告する仕組みづくりが求められます。

    厚生労働省は「ヒヤリハット・想定ヒヤリ 報告書」のテンプレートを公開しています。こうしたテンプレートも参考にしながら、現場から報告が挙がりやすい仕組みを整えていくことが大切です。

    まとめ

    ヒヤリハットが発生する原因は1つだけとは限りません。複数の危険要因が絡み合っていることも想定されるため、対策を講じずにいると重大な事故につながる恐れがあります。一方で、ヒヤリハットには報告義務がないため、現場の危険有害要因を特定する意味でも事例の把握が非常に重要です。

    ヒヤリハットの未然防止を強化したい事業者様は、ヒヤリハット事例を組織内で共有できるツールの利用を検討してみても良いかもしれません。