2022.09.06
どこが変わった?プラ新法|プラスチックはえらんで減らしてリサイクル
目次
2022年4月1日から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」、略して「プラ新法」が施行されました。
プラスチックのリサイクルに関しては、これまでも事業者・行政含めて既に様々な取り組みがなされており、各家庭からの分別収集も既に行われています。このプラ新法の施行によって、何が変わるのでしょうか。一緒に考えてみましょう。
廃プラスチックリサイクルの現状
まず、日本国内における廃プラスチックのリサイクル状況をみてみましょう。
日本国内における廃プラスチックのマテリアルフロー
上の図のように、国内に供給されているプラスチックの総量(製品以外の生産・加工ロスも含む)は年間約897万トンで、そのほとんどが回収され廃棄物として処理されています。そのうちリサイクルされているのは710万トンですが、半分以上の510万トン(63%)がサーマルリサイクルに回されます。
サーマルリサイクルとは、ごみを燃焼した際に発生する熱を回収してエネルギーとして利用する方法を指します。日本ではシェアの大きいリサイクル方法ですが、サーマルリサイクルでは新たな製品の原料として利用できないこと、欧州などではリサイクル方法として認められていない地域もあり、世界的にもマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルに移行する流れもあります。
このような、グローバルに広がるプラスチックの循環利用を日本でも推進するために、環境省は2019年にプラスチック資源循環戦略を掲げました。
日本でのプラスチック資源循環への取り組み
プラスチック資源循環戦略の概要
ここではマイルストーンとして以下の目標が掲げられています。
<リデュース> ・2030年までに、ワンウエイプラスチック(容器包装など)を累積で25%排出抑制する。 <リユース・リサイクル> ・2025年までに、リユース・リサイクル可能なデザインにする。 ・2030年までに、プラスチック製容器の6割をリユース・リサイクルする。 ・2035年までに、すべての使用済プラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用する。 <再生利用・バイオマスプラスチック> ・2030年までに、プラスチックの再生利用(再生素材の利用)を倍増する。 ・2030年までに、バイオマスプラスチックを約200万トン導入する。 |
このプラスチック資源循環戦略において定められた目標を達成するための手段の1つが、今回施行されたプラ新法ということになります。まずはプラ新法の内容に入る前に、これまでにプラスチックのリサイクルに関する法律はどのようなものがあったのかおさらいしておきましょう。
容器包装リサイクル法(1997年)
1997年に施行された容器包装リサイクル法では、家庭から排出される容器包装廃棄物(PETボトル、缶、プラスチック製容器包装等)のリサイクルが義務付けられました。この法律では消費者、市区町村、そして事業者それぞれのステークホルダーに対する義務が定められています。
- 消費者:市区町村の決まりに則った分別排出を実施する
- 市区町村:家庭から排出された容器包装廃棄物を分別収集し、リサイクル業者に引き渡す
- 特定事業者:容器包装廃棄物をリサイクルするのに必要な費用を指定法人を通じてリサイクル業者に支払う
プラマークのついた容器包装プラスチック(以下、容リプラ)もこの容器包装リサイクル法の枠組みの中でリサイクルされます。
家電リサイクル法(2001年)
2001年に施行された家電リサイクル法では、エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機の家電4品目について小売業者による引取り及び製造事業者によるリサイクルが義務付けられました。
これらの家電を廃棄する際に消費者がリサイクル料金を支払うことで家電のリサイクルを可能としています。家電を構成しているプラスチックもこの家電リサイクル法の枠組みの中でリサイクルされます。
自動車リサイクル法(2005年)
2005年に施行された自動車リサイクル法では、自動車の構成部品のうちエアバック・フロン・シュレッダーダスト(ASR: Automobile Shredder Residue)の3品目について自動車メーカー・輸入業者によるリサイクルが義務付けられました。
事業者は消費者が自動車を購入する際にリサイクル料金を徴収し、リサイクル費用に充てることでこれらの品目のリサイクルを可能としています。ASRに含まれているプラスチックもこの自動車リサイクル法の枠組みの中でリサイクルされています。
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラ新法)で定められたこと
その他にも、小型家電リサイクル法や、建設リサイクル法、食品リサイクル法など、製品別にそれぞれリサイクル法が制定されてきました。 これを踏まえて、今回施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」=プラ新法について見ていきましょう。
プラ新法の押さえておくべきポイントとしては以下の5つです。
- 家電リサイクル法や容器包装リサイクル法のような「製品」ではなく「素材」に着目し、プラスチックの循環利用促進を打ち出している。
- リサイクルに主眼をおいたこれまでの個別リサイクル法と異なり、各ステークホルダ(事業者、消費者、市区町村)に対して、ライフサイクル全体を通じたプラスチックの循環利用(Reduce, Reuse, Recycle)を促している。
- 再資源化を促進するため、プラスチックの再資源化計画に伴う廃棄物処理法上の特例が新たに追加された。(個別リサイクル法においても廃棄物処理法上の特例が認められている)
- 基本的にはプラスチックの循環利用に向けた方針を示す内容となっているが、一部罰則などの拘束力を有する内容も定められている。
- 循環型社会形成推進交付金の交付要件にプラ新法への対応が追加されたことにより、市区町村においては製品プラの回収・再資源化が実質的に義務付けられた。
それでは、プラ新法において具体的に何が定められたのか、内容をもう少し詳しくみてみましょう。
プラスチック使用製品設計指針の策定(対象:プラスチック使用製品の設計・製造をおこなう全ての事業者)
プラ新法では、プラスチックの資源循環を促進するためには設計段階での取り組みが不可欠であるとされ、プラスチック使用製品事業者が取り組むべき事項及び配慮すべき事項が定められました。
今後、プラスチック使用製品を設計・製造する全ての事業者にはこの指針に沿うことが求められ、また特に優れた(設計指針に適合した)設計について、国が認定する制度も創設されることが検討されています。
設計指針に適合した設計の認定制度のイメージ※任意の制度
特定プラスチック使用製品の使用の合理化(対象:特定プラスチック使用製品を提供する事業者)
下の図にある12種の特定プラスチック使用製品を提供する事業者には、これらの使用の合理化に関する目標を定め、達成するための取り組みを計画的におこなうことが求められます。
特に、これらの製品の前年度の提供量が5トンを超える事業者は多量提供事業者とみなされ、取り組みが著しく不十分な場合には、勧告・公表・命令等が行われることもあると示されています。
特定プラスチック使用製品12種とその対象業種
特定プラスチック使用製品の使用の合理化
プラスチック使用製品の排出抑制や再資源化等の促進
プラスチック使用製品の産業廃棄物を排出する事業者に対しては、排出抑制・再資源化等に関する目標を立て、これを達成するための取り組みを積極的に行うことが求められています。特に前年度の排出量が250トン以上の事業者は多量排出事業者とみなされ、取り組みが著しく不十分と判断された場合には勧告・公表・命令等を行う可能性が示されています。
また、廃プラスチックの処理方法についても、排出される廃プラスチックは可能な限り再資源化(マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクル)を実施することが求められており、廃プラ油化やガス化などのケミカルリサイクルの技術のニーズは今後も高まっていくと予想されます。
製造・販売事業者及び排出事業者による自主回収・再資源化の促進
事業者による再資源化を促すために、廃棄物処理法上の特例も認められています。プラスチック使用製品の製造・販売事業者/排出事業者とリサイクル業者が連携して策定した再資源化計画について、主務大臣(経産大臣、環境大臣)の認定を受けることで業許可(廃棄物を取り扱うための許可)が免除されるようになりました。
この特例により、事業者が自らの枠組みの中で回収・再資源化を行うことが可能となったため、プラスチック製品の再資源化の促進が期待されます。
市区町村によるプラスチック製品の分別回収・再商品化
家庭から出るプラスチックごみに関しては、市区町村におけるプラスチックの循環利用についても新たな取り決めがおこなわれています。
これまでも、各家庭から排出される容器包装プラスチック(容リプラ)は、容器包装リサイクル法の枠組みの下で市町村による分別収集が義務付けられていましたが、製品プラスチック(製品プラ)の取り扱いは明確には定められていませんでした。しかし、プラ新法においては製品プラも同様に分別収集・再商品化をおこなうことが求められています。
さらに、環境省が循環型社会形成推進交付金(焼却炉等の廃棄物処理設備補助金)の交付要件として“プラ新法に則った再商品化計画の実施“が追加されたことにより、プラスチックの再商品化を実施していない市区町村は焼却炉等の補助金を受け取ることが出来なくなってしまいます。
つまり、市区町村においてプラスチックの再商品化を進めることが実質義務化されたことになります。
再商品化計画 とは
なお、プラ新法の枠組みの中で認められている市区町村による再商品化計画には、以下の2つの方法があり、各市町村が状況や方針に合わせて選択することができます。
容器包装リサイクル法に規定する指定法人に委託する方法
容器包装プラスチックの収集ルートを活用した一括回収
この方法では、既設/新設の容リプラ回収・選別・ベール化のルートを活用し、容リプラを処理するルートで製品プラも同様に処理をおこないます。
リサイクル事業者に支払われる処理費用のうち、容リプラ相当分は従来通り入札の形で容リ協会 から支払われ、製品プラ相当分は市町村より支払われます。
市区町村にとっては、現状のプラ分別収集のスキームを大きく変更する必要がないこと、容リ協会を通しての入札となるため、リサイクル業者が撤退することにより受入先が無くなるリスクを低減できるなどのメリットがあります。
認定再商品化計画に基づくリサイクルを行う方法(大臣認定ルートを活用した独自回収)
この方法では、大臣認定を受けた再商品化計画による独自ルートでの回収・再商品化をおこないます。
リサイクル事業者に支払われる処理費用のうち容リプラ相当分は従来通り入札の形で容リ協会から支払われ、製品プラ相当分は市町村より支払われます。
市区町村にとっては、新たな容リプラの設備導入よりも費用を抑えられること、入札ではないため指定した事業者に対して指定した手法で再商品化を委託できるなどのメリットがあります。
プラ新法によって生まれるビジネスチャンス
プラ新法施行により、今後はこのようなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
各メーカーのバイオプラスチック導入
(参考:バイオプラスチック導入ロードマップ | 環境再生・資源循環 | 環境省 (env.go.jp))
プラスチックの再資源化・再商品化に関する技術
事業者による自主回収・再資源化計画や、市区町村における再商品化計画を進めるにあたり、リサイクル設備の導入が必要になりますが、既存のマテリアルリサイクルでは受け入れ可能な原料に制限があるほか、前処理(選別・洗浄等)にコストがかかってしまうため思うようにリサイクル率を上げることができない可能性があります。
これに対して、原料の受け入れ幅が広いケミカルリサイクル技術を導入することで、プラスチックのリサイクル率向上に貢献することができます。なお、ケミカルリサイクルに必要な量の廃プラスチックを確保するには多くの企業・排出元から集める必要があるため、企業間での連携をはかることが不可欠です。
まとめ
かつては、スーパーで買い物をした際にレジ袋をもらうのが当たり前でした。2020年にレジ袋の有料化が始まり、今ではマイバッグを持ってスーパーに行くのが当たり前になりました。
このように、私たちの行動が変化したのは重要なことですが、なにより大事なことは、私たちの意識が大きく変わったことです。しかし、プラスチックの循環社会を作るためには、レジ袋をマイバッグに変えただけでは十分ではありません。
プラ新法のもとで私たちが目指す持続可能なプラスチックの循環社会を実現するためには、プラスチックの利用を一切無くしてしまうこともひたすらリサイクルをすることも正解ではなく、肝心なのはライフサイクル全体を通じてプラスチックの利用の最適化を図ることであり、今回のプラ新法ではその重要な第一歩が示されています。