2022.04.22
カーボンニュートラルとは?意味や取り組みをわかりやすく解説
目次
世界各国における地球温暖化対策の本格化にともない、「カーボンニュートラル」という言葉を耳にする機会が多くなりました。ですが、「カーボンニュートラルの正確な定義や具体的な取り組みまでは分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、カーボンニュートラルの言葉の意味から、実現に向けた日本の取り組み、課題まで詳しく解説します。
「カーボンニュートラル」の意味とは?
はじめに「カーボンニュートラル」とは、何を指す言葉なのか、その意味の解説とともに、世界的に「カーボンニュートラル」が求められるようになった背景についてご紹介します。
温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」を意味する言葉です。
温室効果ガスとは、CO₂のほかにメタンや一酸化二窒素、フロンガスなど、太陽光で温められた熱の一部を吸収して地表付近を温める性質を持つガスのことをいいます。これらのガスは濃度が高くなりすぎると地球温暖化を引き起こす原因となるため、世界各国が排出量削減に取り組んでいます。しかし人類が地球で生活を営む以上、排出を完全になくすことはできません。
そこで「排出量」と「森林などによる吸収量・技術活用による除去量」を均衡させてその差をゼロに、つまり “ニュートラル” の状態にすることが目標とされるようになりました。
2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が所信表明演説でこの言葉を用い、「2050年までにカーボンニュートラルの社会を目指すこと」を国会で正式に宣言しました。これを機に日本のメディアでは「カーボンニュートラル」という言葉が頻繁に用いられるようになり、今では世の中に広く定着しつつあります。
カーボンニュートラルが求められる理由
なぜ今、カーボンニュートラルが求められるようになったのでしょうか。
一番の理由は、地球規模で平均気温が上昇し続けていることです。気象庁の統計によると、日本の平均気温は1898年の統計開始以来100年あたり1.28℃の割合で上昇していることが分かっています。また世界の平均気温も、19世紀半ばと比較して約1℃上昇しました。
(参照:気象庁「日本の年平均気温」、IPCC「第6次評価報告書」)
このままでは平均気温が上昇を続けて気候変動が加速し、災害の頻発や農作物の収量低下など、深刻な被害をもたらすと予想されています。
気候変動への対応を目的に、第1回「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP1)が1995年に開催され、1997年のCOP3では、地球温暖化に対する取り組みの具体的な目標を定めた「京都議定書」が採択されました。
「京都議定書」は先進国の温室効果ガス排出量を1990年比で5%以上削減することを目標に掲げ、第一約束期間(2008~2012年)では、加盟している先進国23か国中11か国が目標を達成しました。しかし目標を課せられていたのは先進国のみで、CO2排出量が急増していた発展途上国は対象外でした。そのため、先進国の間に不公平感が募り、さらに米国が京都議定書を批准しなかったことから、実効性に疑問符がつくことになりました。
これを受け、2015年に採択された「パリ協定」では、先進国・発展途上国を問わずすべての参加国に以下の長期目標が掲げられました。
- 世界的な平均気温上昇を産業革命以前にくらべて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること
- 今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること
COP26終了時点(2021年11月)で、日本を含む151以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、これらの目標の達成に取り組んでいます。
「カーボンニュートラルの実現」に向けた各国の動向についてはこちらの記事をご参考ください。
カーボンニュートラルの課題と問題点
カーボンニュートラルは世界各国が実現を目指す一つのゴールではありますが、様々な課題や越えなければならないハードルがあることも事実です。課題として挙げられる4つの観点をご紹介します。
基準設定・検証が難しい
先進国の場合、国内には既に交通インフラなどが整備されているため、温室効果ガスの排出量は減少傾向にありますが、開発途上国ではインフラ整備のために排出量が増加する傾向があります。
また人件費の安さなどから、先進国の企業が開発途上国に生産拠点を置いているケースも。この場合、他国へ輸出される製品の生産過程で排出された温室効果ガスが、生産拠点となる開発途上国の排出量として計算されてしまうことにつながります。
排出基準を数値で表すことは難しく、基準が曖昧で不平等であればあるほど、その検証も不平等なものとなってしまいます。カーボンニュートラルを実現するためには、「各国が」ではなく「世界全体で」どれだけ排出量を削減できたかに目を向け、協調していくことが求められています。
再生可能エネルギーはコストが高い
カーボンニュートラル実現に向けて、CO₂を排出しない「再生可能エネルギー」の活用に注目が集まっていますが、その普及に向けてはコストをはじめとした多くの課題があります。
特に日本は国土が狭く、再生可能エネルギーの発電に適した土地が限られているほか、台風や地震といった災害も多いため、設備の維持や修理に多額のコストがかかります。また屋根や屋上、山間部の斜面などのスペースを活用するにあたっては、専用の架台などが必要となりイニシャルコストが増大します。このような理由から、日本における再生可能エネルギーの発電コストは海外にくらべて高く、電気料金が割高になるリスクがあるなど、発電事業者・消費者に選ばれる電力源になるには時間がかかると言えるでしょう。
再生可能エネルギーは電力量が安定していない
電力量の不安定さも、再生可能エネルギーの普及における課題の一つです。
太陽光発電や風力発電などの発電量は、季節や天候、立地などの条件によって大きく変動します。例えば、ソーラーパネルに雪が積もってしまうと十分な発電量が得られないため、豪雪地帯では冬季の発電効率が低下します。また時間帯によって日陰ができる場所でも、発電効率が低下する傾向があります。
この時需要と供給のバランスが崩れれば、大規模な停電などにつながりかねません。電力不足時にはほかの発電で不足分を補ったり、蓄電池などを活用した電力システムの最適化を行ったりと、工夫が求められます。
日本のカーボンニュートラルに向けた取り組み
様々な課題や問題点があるなかでも、カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みが行われています。ここからは、日本の削減目標と取り組みについてご紹介します。
2030年:2013年度比で46%削減
2021年4月、政府はカーボンニュートラルの実現に向けた中期的な目標として「2030年度に2013年度比で温室効果ガス排出46%削減、更に50%の高みに向けて挑戦を続けていくこと」を打ち出しました。
これを達成するための具体的な対策として、エネルギー基本計画を見直し非化石エネルギーを拡大させる方針を決定。将来的に再生可能エネルギーを主力電源とするために、FIT・FIP制度の運用によるコスト削減や、地域住民の理解を得るための安全対策の強化に取り組んでいくとしています。
2050年:カーボンニュートラルの実現
2030年をターゲットとした目標はあくまでも中期目標であり、最終的な目標は2050年までにカーボンニュートラルを実現することです。
具体的な取り組み・法整備・ 地域脱炭素ロードマップ
2021年6月に「地方からはじまる、次の時代への移行戦略」をキーメッセージとして、「脱炭素化を国全体として取り組むうえで2030年までに集中しておこなう内容」を示した「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。
そのなかで、脱炭素の具体策とその工程のうちの1つとして「2030年度までに少なくとも100か所以上の『脱炭素先行地域』をつくること」を掲げ、自家消費型太陽光発電や省エネ住宅、電気自動車の普及といった重点施策を全国各地で実施する方針を示しています。
改正地球温暖化対策推進法
2021年5月には「改正地球温暖化対策推進法」が成立しました。これは、地域社会における持続的な再生可能エネルギーの導入を進めるための仕組みづくりを目的としたものです。
主な改正ポイントは、次の2点です。
- 地方公共団体実行計画に施策の実施に関する目標を追加すること
- 市町村は、地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に係る促進区域や環境配慮、地域貢献に関する方針等を定めるよう努めること
これにより、地域の合意形成を円滑化し地域の脱炭素化を促進すること、実行計画で定める再エネの利用促進等の施策について適切な実施目標設定の促進をすることが可能になりました。
この改正が反映された「地方公共団体実行計画」の一例として、東京都が策定した「ゼロエミッション都庁行動計画」をご紹介します。
【目標】
- 2030年までに都内の温室効果ガス排出量を2030年までに50%削減(2000年比)すること
- 再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%程度まで高めること
【対象項目】
- 建物のゼロエミッション化に向けた省エネルギーの推進・再生可能エネルギーの利用拡大
- ZEV(ゼロエミッションビークル)の導入推進
- 使い捨てプラスチックの削減
- 食品ロスの削減
- フロン対策の推進
計画期間は2020年度から2024年度の5年間で、上記5分野への取り組みを強力に推進することで、目標達成を目指しています。
グリーン成長戦略
「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、民間企業のイノベーションを促し、日本の経済成長と環境保全の好循環を生み出そうと策定されたのが「グリーン成長戦略」です。
温室効果ガスの排出削減に不可欠な産業を「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」の3つに分類し、それぞれの産業を細分化し14の重要分野を設定しました。これらの分野ごとに2050年までの工程表を作成して、1. 研究開発 2. 実証 3. 導入拡大 4. 自立商用 の4段階を整理し、カーボンニュートラルに向けた実行計画を実施していくとしています。
カーボンニュートラルを実現するために必要なこと
カーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガスの「排出量削減」と「吸収源の保全や強化」が欠かせません。国や企業が連携しながら様々な取り組みを進めています。この章では、個人や企業ができる身近な取り組みをご紹介します。
カーボンニュートラルの実現に向けた、国・地域・企業の取り組みはこちらをご参考ください。
【個人】電気使用量の見直し
温室効果ガスの排出量削減に向け、個人がすぐに取り組むことができるのが、節電です。「照明器具・テレビ・エアコン」は家庭内の消費電力の約4割を占めると言われており、これらを意識して節電することで特に効果が出やすくなるでしょう。
使っていない部屋の照明はこまめに消すこと、テレビは画面の明るさを抑えることや、見ていないときはこまめに電源を切ることなどが節電につながります。
エアコンについては、冷房の設定温度は1℃上げると約13%、暖房は1℃下げると約10%の節電になると言われており、適切な室温設定や定期的なフィルター掃除が有効です。
使用していない家電のコンセントは抜き、待機電力の消費を防ぐことも節電になります。スイッチで電源をオンオフできる電源タップを利用するのもおすすめです。
【職場】テレワークへ移行と残業時間の削減
個人がオフィスでできる取り組みとしては、冷暖房を適切な温度設定にすることや飲料自販機(缶・ペットボトル)の利用頻度を減らすこと、エレベーターの使用を抑え階段を利用すること、コピーやプリントアウトの量を減らしペーパレス化を心がけることなどが挙げられます。
また、働き方を見直すことも有効といえます。テレワークを取り入れることは、移動にともなうCO2排出量の削減につながり、残業時間を減らすことは節電につながります。
ちなみに当編集部では、コピー用紙の見える化、電気やモニター消し忘れ回数のモニタリングをおこない、毎月部会で共有しています。
【企業】再生可能エネルギーを導入・オフィスの省エネ化
最後に、企業がオフィスで導入できる取り組みをご紹介します。
再生可能エネルギーの導入
小売電気事業者が提要する「再エネ電気プラン」を選ぶことで、発電設備を設置することなく再生可能エネルギー由来の電気に切り替えることができます。再生可能エネルギー割合が100%のプランであれば、CO2排出量実質ゼロの電気になります。
自社ビルの場合、太陽光発電の設備を導入するのも一案です。太陽光パネルと蓄電池を屋上に設置すれば、消費電力の一部をまかなうことも可能になります。
オフィスの省エネ対策
テナントビルに入居している場合は、再生可能エネルギーへの切り替えや太陽光発電設備の導入は難しいため、オフィス内での省エネ対策が重要になります。
オフィスの消費電力の削減方法には、拠点ごとのCO₂排出量の可視化やペーパーレス化、LED照明への切り替え、センサースイッチ導入による人のいない場所の消灯などが挙げられます。
また、空調の効率を高める工夫も効果的です。例えば、窓に遮熱フィルムを貼り付ける、ブラインドを設置する、サーキュレーターを活用する、空調の定期的な清掃をおこなうなど、複数の方法があります。ノー残業デーなどの施策を通して、オフィス内に従業員を滞在させないことも、省エネ対策になります。
まとめ
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」こと、すなわち排出量と吸収量・除去量を均衡させ差し引きゼロにすることを指します。
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」こと、すなわち排出量と吸収量・除去量を均衡させ差し引きゼロにすることを指します。カーボンニュートラルの実現に向けた日本の取り組みに加えて、個人・企業ができる身近な取り組みをご紹介しました。ご参考にしていただけましたら幸いです。