2022.09.02
燃料電池車(FCV)のライフサイクルCO₂から水素のサステナビリティを考える 0
目次
水素(H₂)は、環境負荷の少ないサステナブルな燃料の1つといわれています。しかし、水素の製造方法によっては、環境にやさしいと言えなくなってしまう場合もあることをご存知でしょうか?
そこで今回は、水素を燃料とする燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)に注目し、そのライフサイクルにおけるCO₂排出量から「究極にサステナブルな水素」とはどんな水素なのかを考えてみましょう。
燃料電池車のライフサイクルアセスメント
現在注目を集めている、水素燃料を電池にして走る燃料電池車。日本ではトヨタ自動車から「MIRAI」が発売されています。
トヨタ自動車は、燃料電池車MIRAIのライフサイクル(製造から廃車までの全過程)におけるCO₂排出量を、同規模のガソリン車(GV)・ガソリンを燃料とするハイブリッド車(HV)と比較した結果を公表しています。
(出典1:TOYOTA「The MIRAI LCA レポート」)
MIRAIの燃料となる水素は、苛性ソーダ法で製造された”副生水素由来”となっているため、水素製造時にCO₂が排出されます。そのため、製造時における燃料電池車のCO₂排出量は、ガソリン車・ハイブリッド車よりも多くなってしまいます。
一方、走行距離が20,000kmを超えるとCO₂排出量は「ハイブリッド車<燃料電池車<ガソリン車」となります。そして走行距離40,000kmを超えると、燃料電池車のCO2排出量は他2つよりも少なくなっていきます。
これは走行中に多くのCO₂を排出するガソリン車、バッテリー製造にCO₂を排出するハイブリッド車と比べ、燃料電池車の走行におけるCO₂排出量が少ないためです。
そして廃棄時には、燃料電池車のライフサイクルCO₂は、ガソリン車の約50%、ハイブリッド車の約80%程度にとどまります。製造から廃棄までのライフサイクル全体で考えた時に、燃料電池車は環境にやさしい車であることが分かります。
では、副生水素由来ではなく天然ガスと再生可能エネルギー由来の水素を燃料とした場合はどうでしょうか。
天然ガス由来の水素を利用した場合、走行距離がライフサイクルの後半(約120,000km以下)では、燃料電池車よりもハイブリッド車の方がCO2排出量が少なくなります。
一方、欧州の条件である「水素を再生可能エネルギー(風力発電)由来で製造した場合」の結果を見ると、 ライフサイクルにおけるCO₂排出量は、天然ガス由来の場合と比較し約50%に留まります。つまり、再生可能エネルギー由来の水素を使うことで、大幅に環境への負荷を軽減できることが分かります。
まとめると、水素製造時にCO₂を発生しない、再生可能エネルギー由来の水素をFCV車の燃料に使用することが、環境負荷低減には必要であるといえるのです。
水素を燃料電池車に使う場合には、使用する水素そのものの製造方法にも注目していくことが大切だということかもしれません。
燃料電池車をもっとサステナブルに利用するためも、再生可能エネルギー由来の水素や水素製造過程で発生するCO2を全て回収・貯留するなどして、実質的にCO2排出量がゼロとみなせるグリーン水素やブルー水素などの商用化が求められているのです。
再生可能エネルギー:太陽光、風力、水力などの自然界に存在し繰り返し利用できるエネルギーのこと
再生可能エネルギー由来の水素の活用に向けて
(参照:川崎重工「Kawasaki Hydrogen Road 〜水素社会の未来を切り拓く〜」、千代田化工建設「SPERA水素システムについて」)
また現在、再生可能エネルギー由来の水素を商業化するにあたって、経済性や安全性も含めた輸送・貯蔵などの課題が存在します。
これらの課題解決には各社の技術開発のみならず、サプライチェーン全体の最適化も図る必要があります。現在、商業化に向けた実証が各社でおこなわれていますので、早期の商業化を期待しましょう。
まとめ
水素(H₂)は 、サステナブルな燃料の一つですが、水素の製造方法によって、燃料電池車の燃料として使用する際のライフサイクルにおけるCO₂の排出量は異なります。
環境にやさしく「究極のサステナブルな水素」と言うためには、再生可能エネルギー由来で製造された水素、あるいは化石燃料由来の水素でも、水素製造過程で発生するCO₂を全て回収・貯留し、実質的にCO₂排出量がゼロとみなせる水素でなければなりません。
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