サステナビリティ委員会 設立の舞台裏|社内外に広がるサステナビリティの輪

サステナビリティ委員会 設立の舞台裏|社内外に広がるサステナビリティの輪

目次

    2023年春、企業が公表する有価証券報告書の非財務情報に、サステナビリティ関連の項目が新たに設けられることになりました。企業のサステナビリティへの取り組みやESG経営を重視する世界的な潮流は、より確かなものになってきています。一方で、サステナビリティ対応の進め方や、社内体制の構築といった課題に直面している方も多いのではないでしょうか。

    今回は、企業内にサステナビリティ委員会を設立したメンバーの1人である、日揮ホールディングス 経営企画ユニットサステナビリティ推進グループの堀川 愛子さんに、サステナビリティ委員会の設立の経緯や活動内容について伺いました。

    サステナビリティ関連の取り組みに従事している方や、サステナビリティ委員会を立ち上げようと考えている方のヒントになれば幸いです。

    グループ横断のサステナビリティ委員会ができるまで

    設立の経緯、メンバー構成、開催頻度は?

    ――2021年の12月にサステナビリティ委員会が設立されたそうですが、どのような経緯で設立が決まったのでしょうか

    当社は2021年の5月に、「2040年ビジョン」という20年先を見据えた長期経営計画を発表しましたが、その頃の世の中で高まっていたのが、「気候変動に対する戦略/取り組みの方針を発信して欲しい」というニーズです。

    そのため2040年ビジョン策定の過程で、「気候変動対応を中心とした、サステナビリティ課題を審議する場が必要だ」という機運が高まりました。結果、サステナビリティ委員会の設立に向けて動き出すことになったのが経緯です。

    ――サステナビリティ委員会設立までのプロセスはどのようなものでしたか

    はじめは、メンバーを決める前に実務に手をつけました。TCFD*のフレームワークに沿ってシナリオ分析をして、CDP(旧Carbon Disclosure Project)と呼ばれている気候変動対応のアンケートにトライアルで回答することで、「気候変動関連の情報開示」をおこなうことからスタートしました。並行して、社内のサステナビリティ基本方針も策定しました。(* TCFD(Task Force on Climate-related Financia:気候関連財務情報開示タスクフォース)は、G20 の要請を受け、金融安定理事会により設立された)

    その後、このような事柄を議論するにはどのような体制で、誰をメンバーにするのがふさわしいか?という観点で、委員会のメンバーを決めていきました。
       

    ――委員会はどのようなメンバーで構成されていますか?また、開催の頻度はどれくらいなのでしょうか。

    サステナビリティ委員会の委員長は、日揮ホールディングスのCEOが務めています。そしてメンバーは、①日揮ホールディングスと傘下の事業会社主要5社の社長・②ホールディングスの副社長・③経営企画ユニットとサステナビリティ協創ユニットの部長と管掌です。ちなみに私は委員会の事務局をしています。

    頻度に関しては、当初の委員会規程では、1年に1度の開催予定でした。しかし実際に活動を開始してみると、想像以上に議題が多く、結果的に年に3~4回の頻度で開催していました。

    2023年度からは年3回、日程をしっかり決めておこなうように変更しました。

    4つの分科会で専門的な課題を検討

    具体的な取り組みや活動内容は?

    ――サステナビリティ委員会ではどのような取り組みをおこなっていますか?

    サステナビリティ委員会では、

    • CDPを含む気候変動関連情報開示への対応
    • CO2排出量削減計画の策定及び管理
    • サステナビリティ対応を促す制度の策定
    • その他サステナビリティ課題の特定及び対応など

    を主におこなっています。

    また、委員会設立後の約半年の間に「サステナビリティに関する特定のテーマを議論する場」として分科会が発足しました。その運営と活動報告もおこなっています。

    ――委員会の下に、「分科会」が発足したのですね。分科会のテーマやトピックがあれば教えてください。

    現在は、「①CDP回答体制整備」、「②CO2削減計画策定」、「③人権対応」、「④インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)」の4つの分科会がテーマを持ちながら活動しています。

    分科会それぞれには、さらに事務局があり、活動の取りまとめをおこなっています。「①CDP回答体制整備」と「②CO2削減計画策定」の事務局は、私が所属するサステナビリティ推進グループが担当していますが、「④I&D」は人事企画ユニットが、「③人権対応」はコンプライアンスユニットが担当しています。このように、各トピックごとに事務局を運営してもらうことで、より専門的で深い議論が可能になりました。

    攻めと守りのサステナビリティを実現する体制が整った

    サステナビリティへの取り組みが加速したきっかけは?

    ――サステナビリティ委員会ができたことによる、社内の変化を感じることはありますか?

    これまでは、日揮グループ各社がサステナビリティへの取り組みを各自でおこなっていました。が、この度グループ横断のサステナビリティ委員会ができたことで、日揮グループ全体としての継続的・効率的な議論が出来るようになったと感じます。

    ――サステナビリティ委員会の設立において、特に苦労したことは何ですか?

    サステナビリティ委員会設立まではトントン拍子で進んでいったので、正直なところ苦労したと感じることはなかったですね。

    強いて言うなら、4年前に「サステナビリティを推進する体制をつくろう」という話をボトムアップで進めたのですが、時期尚早ということで実現に至らなかったことかもしれません。

    ――1度とん挫した計画が再び軌道に乗ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

    当社グループが、「これからはオイル&ガス分野のプラント建設だけではなく、サステナビリティ関連分野のプラント建設や新規事業にも力を入れていく」という方針に舵を切ったことです。これで風向きが大きく変わりました。

    サステナビリティ関連のプラント建設や新しい事業の創出を目指す【攻めのサステナビリティ】と、グループ内のサステナビリティ体制を整備する【守りのサステナビリティ】、この両輪で進めていく必要性から、一気にサステナビリティへの取り組みが進んだのです。

    CO2関連の技術開発を経て、サステナビリティ関連業務に

    専門領域、仕事と家庭の両立は?

    ――今度は、堀川さんについてお伺いします。堀川さんは学生時代から環境問題に関心があったのですか?

    そうですね。もとを辿れば小学生のころから「もったない」ことがとても嫌いで、裏紙を使ったり、使っていない部屋の電気を消して回ったりするような子でした。

    成長していくにつれてリサイクルや環境・エネルギーに関心を持ち、大学では環境・エネルギー分野を学べる化学工学を専攻しました。就職活動の際には「化学工学を活かして何かできることはないか」という視点で調べて、プラントを建設しエネルギーをつくる「エンジニアリング業界」の存在を知り、入社を決めました。

    ――入社後はどのような仕事に携わってきましたか?

    入社後は、プラントの設計をする部署に配属され、CO2の分離回収をするプロセス設計・開発に従事しました。地面を掘って出てきた段階の石油やガスには、CO2などの不要な温室効果ガスが混じっていることから、そのまま使うことが出来ません。そこで不要なものを取り除くプロセス(分離回収)が必要になってくるのです。

    部署ではCO2分離回収のプロセス設計をおこなう一方で、回収したCO2を地面に埋めるという「CCS関連」の技術開発にも携わりました。

    (【参考記事】CO₂排出量削減に向けて注目されるCCS・CCUSとは?基礎知識を解説 | サステナビリティ ハブ (sustainability-hub.jp)

    こうしたことから次第に、CO2にまつわる新規ビジネスの創出にも取り組むようになりました。

    とはいえ当時(10年前)は、CCSが実際のビジネスになるのはまだ先の話だったので、ビジネスの”芽”を探すため、地球温暖化や気候変動について広く調べましたね。もちろん、2015年以降にSDGsやESGが世界的に注目されるようになってからは、こうした分野についても関心を持ち、世界の関連情報を把握して社内で発信するようにもなりました。

    ――CO2関連の技術開発の業務がきっかけで、気候変動やSDGsへと専門性の幅を広げていったのですね。その後、どのような経緯で「サステナビリティ推進」を担当するようになったのですか?

    気候変動やSDGs・ESGといった世界の潮流を追いかけているうちに、「当社自身のサステナビリティにまつわる課題に対応し、社内外へ発信する推進組織が必要では?」という意識を持つようになったんです。そこで、ワーキンググループをつくり、サステナビリティ推進の組織づくりの起案・上申をしていたのですが、その時は時期尚早という判断で流れてしまいました。

    その後、2020年に復帰した時(育児休業後)に所属していた部署が、「サステナビリティ協創部(現 サステナビリティ協創ユニット)」に合流するタイミングだったこともあり、メディア戦略と非財務情報の開示を担当することになりました。私が過去に、ワーキンググループでサステナビリティ推進に向けた体制作りを訴えていたことから、声が掛かったのです。

    さらに2022年4月からは経営企画部(現 経営企画ユニット)の中に「サステナビリティ推進グループ」が新設されました。このグループ内でマネージャーとして、コーポレートコミュニケーショングループ*  や関連部門と連携し取り組んでいます。
       * 日揮グループの広報・IR業務を担当

    ――過去の働きかけが繋がっていったのですね。素敵です。ちなみに育児休暇明けから、サステナビリティを推進する業務についたとのことですが、仕事と家庭の両立は大変だったのではないでしょうか。

    仕事ができる時間というのは限られているので、できることしかやっていない、というのが実情かもしれません。やりたい仕事がこぼれ落ちてしまい不甲斐なく思うこともありますが、優先順位が低かったものだから仕方ない、と自分に言い聞かせています。

    平日は夜ご飯を食べ終わったら、一気に家事・育児をしています。食洗器や乾燥機つき洗濯機など、家電には積極的に頼っていて、夜は汚れた物を放り込んで子供と一緒に早く寝ていますよ。料理が好きなので、夕飯づくりや子どもと過ごす時間、早朝の一人時間が、忙しい日々での気分転換です。

    サステナビリティは他社と協力していける分野

    今後の展望は?


    ――今後、サステナビリティ関連の取り組みをどのように発展させたいですか?

    これまで、当社グループのサステナビリティにまつわる外部への発信は、事業の範囲内でおこなう「活動PR」が中心でした。ですが今後はESGの視点に配慮し、「将来を見据えた非財務情報の開示や社会価値の発信」へと発展させていきたいです。【関連記事:ESG経営とは?|成功のポイント・事例を紹介 | サステナビリティ ハブ (sustainability-hub.jp)

    具体的な取り組みとして進めているのが、当社グループ全体のCO2排出量を削減するための計画案および体制づくりです。目的・参画メンバー・組織図・スケジュールなどを織り込んで計画しているところです。

    ――では最後に、堀川さんと同じようなサステナビリティ関連の業務に従事している人に、アドバイスをいただけますか。

    この仕事をしていて強く感じるのが、「サステナビリティへの取り組みは、他社と競争するのではなく、協力していける分野」ということです。つまり、どのようにサステナビリティへの対応をしているのか、自社のオリジナルな事例を教え合って互いを高めていける分野が「サステナビリティ」だと思います。

    私たちのようなエンジニアリング会社は、実はまだそこまでサステナビリティの分野では進んでいないのが実情です。しかし、近い業種でいうと建設業界は取り組みが非常に進んでいて、チームの規模も桁違いです。私たちは、そうした他社の方々に教えていただきながら手探りで進めてきたという一面もあるんです。

    これからも皆さんと一緒に意見交換しながら、良い事例をどんどん取り込んでいきたいですし、私たちの事例がもし参考になるのであれば、積極的に活用していただけたら嬉しいです。

    ――まさに「協創」という言葉がぴったりな分野というわけですね。本日は素敵なお話をどうもありがとうございました。


    サステナビリティハブ編集部

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