2022.08.30
何を選ぶ?どう捨てる?衣服とサステナビリティの本当の話
目次
皆さんは衣服を買う際、どのような基準で選んでいますか?デザインや機能性、着心地、値段など、優先順位をつける人がほとんどかと思いますが、近年はファストファッションの普及などにより、高機能・高品質な商品も比較的に安価に購入ができるようになりました。 しかし手軽にゲットできるということは、「その衣服を手放すまでのサイクル」も早まりがちということに繋がってしまいます。
では「サステナビリティ」という視点から見た時、私たちは衣服をどのように選ぶのが良いのでしょうか?
今回はそのヒントとなる、衣服や衣服のリサイクルにまつわる正しい知識を詳しく解説していきます。
私たちがまだ知らない、アパレルとサステナビリティの話
「環境問題」と「ファッション」。一見あまり関連性のないキーワードに見えますが、実は全世界の温室効果ガス排出量の8~10%は衣服産業由来という事実をご存知でしたか?
この20年で世界における衣服の生産量は以前の2倍にも膨らみ、反対に、1着あたりの着用期間は半分程度に減ったという報告もあります。これは、廃棄された衣服が急増していることを示しています。日本においても廃棄された衣服のうち68%は、リサイクルの道を辿るとなく可燃ごみ・不燃ごみとして処分されてしまっています。
衣服を捨てなければ環境に優しい?
では衣服の廃棄量を減らせば、環境問題が解決するのでしょうか。まず廃棄時以外に、衣服が環境に与える負荷について考えてみましょう。
一般的に衣服の製造は、原料の調達から生地の生産、ボタンやファスナーなどの部品との組み合わせなど、実際の製品になるまでのサプライチェーンが長く、多岐にわたるのが特徴です。そのため各工程で発生する負荷を積算するだけでも環境負荷が大きいのです。従って衣服は、生産段階の各サプライチェーンで環境負荷を減らす努力も重要となります。
(※この記事では、循環型の取り組みに課題がある5分野の1つに挙げられている「繊維・アパレル業界」の現状、また課題などを詳しく解説しています。)
石油由来のポリエステル繊維は本当に悪なのか
石油由来のポリエステル繊維の衣服は、扱いやすさや加工の自由度の高さ、速乾性などの機能面から人気があります。しかしポリエステル繊維を洗濯した際の摩擦などにより発生する、「マイクロプラスチック」は海の生態系を乱す要因の1つです。海洋に流入するマイクロプラスチックの総量のうち、約35%が繊維由来であるとの報告もあり、その影響は無視できません。
一方でポリエステル繊維は腐敗することがなく、天然素材と比較すると品質が安定しています。衣服としての役目を終えた後も、素材を分解して繊維などの製品、エネルギー源であるオイルやガスにもリサイクルできます。
このように石油由来の人工物であるポリエステル繊維も、環境に対して悪であるとは言い切れないところがあるのです。
繊維の種類を正しく知ろう!メリットと課題も
ではサステナブルという観点から見た際、衣服を購入するときどのような製品を選ぶのが良いのでしょうか。ここでは繊維の種類にフォーカスしながら解説します。
「オーガニックコットン」は環境にも良いって本当?
衣服によく使われるコットンは「Thirsty crop(サースティークロップ=喉が渇いた作物)」と呼ばれるほど、生産の際に大量の水を要する農作物です。またデリケートな植物なため、世界で最も大量の殺虫剤が必要だといわれています。コットンの栽培のために散布した殺虫剤はそのまま地域の生活用水に流れ出し、環境はもちろん作業者の健康にも影響を及ぼしているとの報告もあります。
一方、オーガニックコットンをはじめとする「サステナブル・コットン」は、綿花の栽培に際して一定期間殺虫剤や農薬を使用しないこと、子供を労働させないことなどの基準をクリアしたものです。 従来のコットンより割高になることもありますが、サステナブルな衣服を作ることができる点で注目が集まっています。
(※この記事では、サステナブル素材の種類や、環境問題、商品の例を紹介しています。サステナブルな素材で作られた商品を購入したい方、サステナブルな商品を開発をしたい方も、環境問題とファッションに興味のある方はぜひ参考にしてみてください。)
「ウール」の意外な環境負荷とは
では、日本の冬には欠かせない天然繊維「ウール=羊毛」は、環境に優しいのでしょうか。ウールは皆さんもご存知の通り保温性が高いうえ通気性に優れているため、世界中の寒い地域で愛されています。廃棄後も最終的に生分解されるため、ポリエステルのように海洋に流れ出る心配もありません。
しかしライフサイクル全体で考えてみると、羊の飼育に伴って排出されるCO₂や水の使用量も考慮する必要があり、環境負荷が高いのも事実です。
ウールの生産から廃棄までのライフサイクルで発生する環境負荷
現在では、既存のウール製品をリサイクルした「再生ウール」の製品も生産されており、サステナブルな素材として需要が高まっています。
「リサイクル繊維」は持続可能?
最近では、ペットボトルをリサイクルした「ポリエステル繊維」の衣服も多く見かけるようになりました。
ペットボトルはポリエステルで作られているため、糸の形に紡げばポリエステル繊維として再利用することができます。これは、サステナブルな循環サイクルが成立しているようにも見えますが、実はまだ解決すべき課題も。現在のペットボトルの回収量では、流通しているポリエステル繊維のすべてをリサイクル繊維へ置き換えることはできないのです。
さらにペットボトル以外の廃ポリエステル製品は回収システムも充分に整備されていないため、コストが高くなってしまうのが現状です。
リサイクル繊維で作られた衣服は、使用後さらに繊維商品へリサイクルすることは技術的に難しい場合が多く、廃棄するしかありません。繊維の循環サイクルを完成させるためには、「再度同レベルの繊維製品にリサイクルできる技術」の開発が不可欠なのです。
リサイクルを含む循環サイクルは、自国内での完結が求められる傾向にあります。現在、廃プラスチックなどの特定の廃棄物を国外へ輸出することは「バーゼル条約」により規制されています。今後は古着も対象となる可能性があり、古着を国外に輸出して活用することができなくなる恐れもあるのです。プラスチックだけではなく衣服に関しても、自国内で廃棄された製品を適切に処理していくシステムを早急に整える必要があります。
(※こちらの記事では、企業として「サステナブルファッション」に取り組むときのポイントについて分かりやすく解説しています。企業視点でのサステナブルな取り組みについて知りたい方は、ぜひご覧ください。)
【実践編】繊維の循環型社会の実現に向けてできること
一部地域では、ごみの分別回収の1つに「衣類」があるところもありますが、ほとんどの地域では、古着は不燃ごみか可燃ごみとして回収されています。繊維の循環型社会を実現するために、私たちがすぐに取り組めることは何でしょうか?
1.REDUCE:廃棄を減らす
ファストファッションの普及により、機能性やファッション性の高い衣服が手頃な値段で購入できるようになりましたが、一方でそれが我々の「衣服の所持サイクル」を短くし、廃棄量を増やす要因の1つであることも否めません。さらには大量消費を見越した過剰生産により、売れ残った衣服の廃棄も課題となっています。
そこで衣服の廃棄を減らすアイディアのひとつに、衣服を毎月レンタルすることができる「サブスクリプションサービス」があります。
「airCloset(エアークローゼット)」は、プロのスタイリストが選んだ服を毎月レンタルすることができるサービスで、レンタル期間が終了したあとは使用済みの衣服を返却し、クリーニングして再度使用されます。 ちなみに気に入ったアイテムは買取も可能です。廃棄を減らしながら様々なファッションを楽しむことができるサービスを利用することも、環境への配慮に繋がります。
2.REUSE:人に譲る・再生させる
サイズアウトの早い子どもは、兄弟や親戚の「おさがり」を着用する機会も多くありました。最近ではフリマアプリの利用者も増えており、新品に近い状態の衣服をリーズナブルに購入することができます。
また、着なくなった衣服を染め直したりリメイクしたり、サイズを直すことによって、新しく蘇らせることもできます。普段はおもに洗濯でお世話になることの多いクリーニング店でも、色あせを修正したりスーツのサイズを調整するなど、リペアサービスをおこなっている店舗もあるので、近隣の店舗について調べてみるといいかもしれません。
3.RECYCLE:繊維リサイクルのルートに乗せる
サステナブルな視点から見た際は、「REDUCE」・「REUSE」を経て衣服としての役目を終えても、なるべく廃棄ではなくリサイクルにまわしたいものですよね。しかし、衣服を資源として回収している自治体は残念ながら限られています。 そこで、衣服を購入した店舗に設置されている「回収ボックス」を利用するのはどうでしょうか。
(画像提供:H&M)
大手アパレルブランド・H&Mは、2013年から店頭で衣服を回収する取り組みをおこなっています。ブランドや衣服の状態を問わず持ち込むことができ、回収された衣服は、まだ着用できる衣類は古着として販売され、着用できないものはリメイクされたり、清掃用のウエスとして再利用されます。そのいずれにも満たないものは裁断され、再生繊維や 断熱材などの原料として使用されます。
またH&Mで古着の回収に協力すると、デジタルクーポンやポイントがもらえる嬉しいインセンティブもあります。このような衣服回収の取り組みは、ユニクロやZARA、パタゴニアなど多くのブランドで実施されています。着古した衣服をゴミ袋に入れる前に、近くに衣類回収ボックスのサービスがないか調べてみてはいかがでしょうか?
(※この記事では、衣服の処理に伴う環境負荷を少しでも軽減するため、個人でできる服のリサイクル方法についてご紹介しています。また、衣服の製造や廃棄に伴う環境への影響についても分かりやすく解説しています。 )
IoTを活用した無人衣類回収の実証実験
日揮ホールディングスのITサービス事業会社JGC Digitalは、IoT機能付きの回収ボックスを活用した「無人での衣類回収」の実証実験を神戸市で開始しました。回収ボックスは市内の4箇所に設置され、実証期間は2024年1月15日から2024年3月31日までの予定です。
この衣類回収サービス「するーぷ」は、自分や社会に”ちょっといい”ことである衣類回収を「する」、この行動が「ループ」することによる循環型社会の実現を目指しています。
回収ボックスはIoT機能を有しているため、利用者はスマートフォンの専用アプリを使用し、投入扉の遠隔施錠や解錠・回収物(衣類)の重量測定等ができます。そして回収重量に応じたポイントが付与され、貯まったポイントの使い道ははクーポンや寄付から自由に選べる仕組みとなっています。
詳細は「するーぷ」のホームページやニュースリリースからご覧ください。
まとめ
廃棄量の増加やマイクロプラスチックの問題、サプライチェーンの環境負荷など、衣服にまつわる課題はまだ多くあります。
ファストファッションの普及などにより、衣服の消費スピードが加速している今、衣服の生産から消費、そして使用後の回収、再生まで、すべての段階でのサステナビリティについて改めて考え、循環サイクルを作っていく必要があります。
日揮グループでは、サステナブルなサプライチェーン構築に向け、帝人株式会社、東京大学に加え、衣料品サプライチェーンを構成するイオン株式会社や株式会社チクマ、株式会社エアークローゼット、更には家政学の知見を有する共立女子短期大学、環境NPOのグリーン購入ネットワークも含めたワーキンググループとともに繊維リサイクルの研究を進めています。 取り組みに関して質問や知りたい内容がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
本記事の著者が、日揮ホールディングスと東京大学、帝人などと共に設立したワーキンググループを率いていらっしゃる東京大学の平尾教授に、「循環型社会作りにおける衣服特有の課題」についてインタビュー形式でお話を伺った連載記事も是非合わせてご覧ください。
※2022年4月にリリースした「持続可能な繊維産業のエコシステム構築に向けた産学連携ワーキングループの報告書」がダウンロードできます。