2023.12.20
【エンジニアが解説】EUメタン規制とは? GHG排出量を算定するMRV手法も
目次
EUは2023年11月15日、エネルギー部門から排出されるメタンガスの削減に関する規制案について、暫定的な政治合意に達したと発表しました。この規制では欧州域内の石油・ガス・石炭といった化石燃料の事業者に対して、メタン排出のMRV(計測・報告・検証の一連の流れのこと)を義務づけるだけでなく、域内に入る化石燃料に対しても同等のメタン排出規制を求めています。
この記事では、メタンの基本情報、欧州メタン規制によって何が必要になるのか、そして日本国内ではどのような取り組みがおこなわれているかを紹介していきます。
なぜメタンが注目されているのか?
二酸化炭素に次いで排出量が多い温室効果ガス
メタンは温室効果ガス(GHG)の一種であり、二酸化炭素に次いで排出量が多いGHGとされています。
地球温暖化係数(温室効果に与える寄与度を二酸化炭素基準で換算した係数)は二酸化炭素よりも高く、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の5次報告書によれば、100年換算で二酸化炭素の28倍、20年換算では84倍もの温室効果をもたらします。
100年換算と20年換算の地球温暖化係数が大きく異なるのは、メタンの空気中の滞留年数が約12年と短いためです。つまり寿命が比較的に短いメタンは、排出を減らせば二酸化炭素より排出削減効果があらわれやすいGHGといえます。国際エネルギー機関(IEA)によると、産業革命以後の地球の気温上昇の約3割はメタンが原因とされています。
(IEA 「Global Methane Tracker 2023」をもとに作成)
メタン排出源は自然由来と人為由来に分類できますが、人為由来の中でも特に排出量が多いとされているのが、農業部門(稲作や家畜の消化管内発酵など)とエネルギー部門(石油・天然ガス・石炭プラントからの漏出など)です。全体のメタン排出量のうちこの2部門が占める割合は、それぞれ約2割と推定されています。ただし、メタンの排出量の推定は難しく、このデータの不確実性が高いことも併せて報告されています。
メタン対策の第一歩としてのMRVとは
前章の最後に説明したとおり、メタン排出量の推定は非常に難しいのが現状です。そこで近年注目を集めているのが「MRV」です。
MRVとはMeasurement(測定), Reporting(報告), Verification(検証)の頭文字をとったもので、排出量の定量化の一連の流れを指します。単にGHG排出量を推定するのではなく、 “計測”を含む算定によって求め、報告および検証をするのが特長です。
経営学者ピーター・ドラッカー氏の名言に「測定できないものは管理できない」とありますが、メタンについてもまさにこれが当てはまります。今、メタン対策の第一歩として、データの不確実性が高いとされるメタン排出量を正確に把握するためのMRVの重要性が高まっています。
欧州メタン規制とは?
メタン規制の概要
EUは2023年11月15日、エネルギー部門から排出されるメタンガスの削減に関する規制案について、暫定的な政治合意に達したと発表しました。メタン排出に関するEU初の法案となることから、大きな注目を集めています。規則案は、2030年のGHG排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の一部で、EU域内の石油・天然ガス・石炭などの化石燃料事業者に対して、メタン排出のMRV(測定・報告・検証)を義務づけるものです。
今回の合意では、「事業者による報告の実施」と「加盟国の管轄当局による事業者への検査の実施」について次のように定められました。
1.事業者による報告
事業者は報告内容に応じて、規則案の施行後18~48カ月以内に加盟国の管轄当局に対し初回の報告を実施する。2回目以降の報告は、毎年5月末までにおこなう。
2.加盟国の管轄当局による事業者への検査
加盟国の管轄当局は、事業者が規制に定められた要件を順守しているかどうかの検査を定期的に実施する。初回検査は21カ月以内に実施し、2回目以降は少なくとも3年に1回の頻度で実施する。
欧州が輸入するエネルギーにも求められるメタン規制
規制案では、域内の化石燃料の事業者だけでなく、「域内に輸入されるエネルギーに対するMRVを含むメタン規制」についても言及されています。
EUは域外から多くの化石燃料を輸入していますが、本合意では輸入される化石燃料に対し、次のように段階的なメタン排出規制を課すことになりました。
- 第1段階: 域内の輸入業者に対して、輸入する化石燃料のサプライチェーンにおけるメタン排出の報告を義務づけ、メタン排出量のデータ収集をおこなう。
- 第2段階: 2027年以降に新規契約を締結する場合、EU域内への輸出業者はEU域内の事業者と同等のMRVが義務付けられる。
- 最終段階: 2030年にはサプライチェーンで排出される単位当たりのメタン排出量であるメタン原単位の最大値が設定される。
なお輸入業者が規制を遵守しない場合は、加盟国の管轄当局が輸出業者に対し行政罰を科す権限を有することとなります。
COP28でのメタン規制の動き
2023年11月30日から12月13日までアラブ首長国連邦で開催された第28回国連気候変動枠組み条約国会議(COP28)においても、メタンの削減が主要議題の一つとなりました。
欧州委員会委員長はメタン排出量の削減が重要であるとし、1億7500万ユーロをメタンファイナンススプリント*に拠出し、EU域内以外の国にもエネルギー部門からのメタン排出削減のためのへの補助をおこなうことを発表しています。
また米国環境庁(EPA)は米国内の石油ガス産業を対象とする大幅なメタン等の排出規制の導入を発表し、メタン漏洩に関するモニタリング義務の導入を示しました。
*メタンファイナンススプリント:2023年4月の主要経済国フォーラムで発表された資金枠組み。各国のメタン削減計画・政策を加速させ、重要な技術開発への投資促進をうながす。
メタン排出に関する日本の取り組み
液化天然ガス事業におけるメタン排出管理のための「CLEANプロジェクト」
多くの化石燃料を輸入し、エネルギーの大半を液化天然ガス(LNG)に頼っている日本では、需要側としてエネルギー分野におけるメタン対策が進められています。
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2023年7月18日に開催された「LNG産消会議2023」では、経済産業省とJOGMECが「ネットゼロに向けたLNGからのメタン排出削減のための連携(Coalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero、「CLEANプロジェクト」)」を発表しました。
本プロジェクトは、LNG需要国である日本と韓国の協働プロジェクトで、LNG買主が収集した事業ごとのメタン排出管理と排出削減取り組み情報を、JOGMECがベストプラクティスと共に公開する取り組みです。LNGサプライチェーン全体におけるメタン排出の可視性を高めることで、LNGのクリーン化を図っています。
「CIガイドライン」の策定で、進むMRV導入
MRV手法に関する取り組みも進んでいます。JOGMECは2023年6月、「LNG・水素・アンモニアの温室効果ガス排出量及びCarbon Intensity算定のための推奨作業指針(CIガイドライン)第2版」を策定しました(*)。 この指針は、LNG・水素・アンモニア・合成燃料の製造に伴うGHG排出量の算定手法と、単位(エネルギー含有量又は重量)あたりのGHG排出量を示したCarbon Intensity(CI:炭素集約度)の算定手法についての考え方を示したものです。
また、インドネシアのアンモニア製造設備では、 CIガイドラインを利用した「MRVプロジェクト」がおこなわれており、本プロジェクトにおける手法は欧州におけるMRVと同等レベルであることが確認されています。
*参考:LNG、水素、燃料アンモニア、合成燃料の環境価値の可視化へ向けた「CIガイドライン(第2版)」の公表について
まとめ
メタンは二酸化炭素に次いで排出量の多い温室効果ガスであり、地球温暖化対策においてメタン対策の重要性は高まっています。世界では、欧州メタン規制のような規制化も始まっており、日本でもCLEANプロジェクトなどの取り組みが進んでいます。
メタン排出の管理を促進していくためには、MRVによって排出量を正確に把握することが不可欠であり、MRV手法の発展のため、日本でもCIガイドラインの公表やMRVプロジェクトがおこなわれているのです。
日揮グループは、LNGプラントなど天然ガス関連施設の豊富なEPC経験および設計技術やMRVプロジェクトの経験を活かして、上述したCIガイドラインの検討・策定をおこない、自社研究所内にメタン測定技術評価設備を建設し、機器メーカーなどと協力して計測技術に関する試験をおこなうなど、メタン測定技術の発展に貢献していきます。
また、GHG排出量の定量化や 低炭素・脱炭素化に向けた改善提案をおこなうサービス「HiGHGuard®」も提供しています。LNG、天然ガス、水素、アンモニア設備などのGHG排出量算定をご検討の際には、一度ご相談ください。