【わたしの仕事と日常 #06】CO2を原料にした「バイオものづくり」(仕事編)
目次
日揮ホールディングス(以下、日揮HD)では、サステナビリティ関連の新事業の創造を担うため、2019年10月にサステナビリティ協創部(現サステナビリティ協創オフィス)を新設し、現在様々なサステナブル分野の取り組みをおこなっています。今回は、世界的にも注目が集まっている「バイオものづくり」プロジェクトを推進している3人のメンバーに座談会形式で話を聞きました。(インタビュアー:日揮HDサステナビリティ協創オフィス 森田光雄)
バイオものづくり事業で目指すこと
――本日はバイオものづくりチームの皆さんに集まっていただきました。バイオものづくり事業のお話を中心に、3人ともキャリア入社という共通点もありますので、これまでの経歴や入社後の当社の印象などもお伺いしていきたいと思います。私自身は入社以来ずっと日揮グループに在籍しており他の会社の様子が全く分からないため、そうした意味でも皆さんのお話をお伺いするのが楽しみです。ではまず、お一人ずつ自己紹介をお願いします。
(大渕)昨年「CO2からのバイオものづくり」プロジェクトの立ち上げに関わり、今年度は「未利用資源を活用したバイオものづくり」プロジェクトの立ち上げを推進しました。現在は後者のリーダーを務めています。
(小石川)私は「CO2からのバイオものづくり」プロジェクトで、新たに神戸市内に作る研究基盤となるプラントのオーナーズエンジニアリング*を担当しています。
*オーナーズエンジニアリング: オーナー側(事業者側)での新規プラントの設計・調達・建設の一貫した計画および管理業務
(三木)私は「未利用資源を活用したバイオものづくり」プロジェクトで、計画推進と、グループ全体の知財管理をしています。
――バイオものづくり事業は、「CO2からのバイオものづくり」と「未利用材資源を活用したバイオものづくり」の2つのプロジェクトが進んでいるようですが、それぞれどのような事業なのか、教えていただけますか。
(大渕)1つ目の「CO2からのバイオものづくり 」は、CO2を直接食べて様々な物質を生産するポテンシャルを持つ「水素酸化細菌」という特殊な微生物を用いたバイオものづくり技術の開発と、その社会実装を目指すプロジェクトです。2022年3月に「CO2を直接原料とするバイオものづくりの技術開発」に関する国プロに採択され、大手化学メーカー等4社と連携し、日々議論を交わしながら開発を進めています。 水素酸化細菌はエネルギー源として水素と酸素を使用するのですが、可燃ガスとなりうるこれらのガスを安全に制御し、効率よく微生物に食べさせてものづくりをおこなうバイオリアクターの開発と、そのスケールアップを当社が主体となっておこなっています。
*国プロ:国家プロジェクトの略で、税金を原資として国や地方公共団体が主導で実施する事業の総称
*バイオリアクター:微生物を触媒として物質の合成をおこなう装置
2つ目の「未利用資源を活用したバイオものづくり 」は、木質等の資源から「糖」を取り出し、これを原料に微生物を用いて多種多様なものづくりを行う技術を開発する取り組みです。こちらも2024年7月に「未利用資源から得られる「糖」を原料とするバイオものづくりの社会実装を目指す」国プロに採択されており、大手製紙メーカー等6社と連携して社会実装を目指しています。
(「バイオものづくり」について詳しく知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。)
日揮HDに転職した理由は?
――皆さんにはバイオものづくり事業の人材として中途入社で参画していただいたという経緯がありますが、前職ではどのようなことをされていたのか教えていただけますか。
(大渕)私は日揮HDに入社して4年目ですが、前職の製紙会社では未利用資源である木質バイオマスの付加価値化に関する基礎研究、プロセス開発を担当していました。
(小石川)1年半前に日揮HDに入社しました。石油メーカー、原子力プラントメーカー、再エネベンチャー、資源循環ベンチャーを経て5社目となりますが、一貫してプラントエンジニア、プロジェクトエンジニアとしてプラントの立ち上げに携わってきました。
(三木)日揮HDに入社して1年ちょっと経ちましたが、前職は化学メーカーで、微生物にガスを与えて有価物を生産するプロセス開発において、微生物の培養からプロセス開発に従事していました。
――大渕さんと三木さんはバイオのバックグラウンドがあって、日揮HDに転職されてきたということですが、転職のきっかけは何だったのでしょうか。
(大渕)前職では、木質バイオマスを化学プロセスやバイオプロセスで付加価値化して商品化するという仕事をしていたのですが、「バイオものづくり」がだんだんと盛り上がってきている雰囲気を感じていました。自分もバイオものづくりに参画したいと考えていた時に、日揮HDが今後バイオに力を入れていく方針を打ち出しているのを知り、興味を持ちました。
また、メーカーの立場での開発は、自社商品を差別化するためにクローズなプロセス開発になりがちですが、エンジニアリング会社であれば、ユニバーサルな技術をつくってそれを広く普及させる仕事ができるのではないか、という期待感もありましたね。
――これまで携わってきたことに関連があって、さらに実際にものをつくっていく方にシフトしたということなんですね。三木さんはいかがですか?
(三木)私の場合、前職の業務も割と今と近しい内容でしたが、「微生物の培養」の部分が主で、スケールアップの領域については全く知識がありませんでした。その領域で非常に困惑した経験から、 私はスケールアップについてもわかる人材になりたいという思いがありました。日揮グループはエンジニアリング会社でスケールアップの部分に強みがありますから、ここなら自分がやりたいことが出来るのではと思い、転職することにしました。
――ステップアップを考えて転職したということですね。小石川さんは、いかがですか?転職の決め手は何でしたか。
(小石川)これまで在籍したのはすべてインフラ関連の会社で、新規プラント建設の設計から立ち上げまで携わってきました。前職のベンチャー企業での仕事も面白かったのですが、もう少しスケールの大きい仕事をしたいと思っていた時に、日揮HDで新規プラントの立ち上げ要員を募集していることを知りました。最初に入社した石油メーカーにいる頃から日揮グループのことは知っていたのでイメージもしやすく、規模の大きい仕事ができることに何より魅力を感じ、転職を決めました。
――なるほど、バイオをやりたくて日揮HDに入ったわけではなかったと。
(小石川)そうですね、新設プラントの立ち上げということしかわかっておらず、バイオ関連のプラントだということは入社後に知りました。
(大渕)実は小石川さんの面接の時点では、まだ国プロに採択されるかが決まっていなかったので、詳しい話ができなかったんです(笑)
――そうだったんですね。プラントエンジニアのバックグラウンドがあるものの、バイオは初めてという立場で、実際に業務にあたってみていかがですか?
(小石川)バイオのバックグラウンドがないこともそうですが、これまで国プロの経験がなかったので、これまでの経験からどうしてもオーナー側ではなくコントラクター側の視点で見てしまうところがあり、最初は苦労しました。ですがこの状態ではサステナビリティ協創ユニットの一員として仕事をしている価値が薄くなってしまいます。
そこで、大渕さんや三木さんのようなバイオのプロフェッショナルの方に教えてもらいながら、開発サイドの取り組みや開発目標といったところをある程度理解して、その上で、開発目標を達成するために必要な設備、最適な設計を構築していくことを意識するようになりました。
――プラントエンジニアという専門性をベースにして、足りないバイオの部分を埋めていくことで、自分の得意を活かしながら仕事をすることができているんですね。
(大渕)少し付け加えると、「CO2からのバイオものづくり」自体は、世界初の試みなので、この技術に関するプロフェッショナルと呼べる人は誰もいないんです。もちろん、微生物を利用するのでバイオの知識は必要ですが、今回は、水素や酸素をガスにして培養液に溶かして微生物の餌にするので、その部分では化学工学的な知見が非常に重要になってきますし、この可燃性ガスを安全に効率的に取り扱うという面では、日揮グループの専門領域である石油&天然ガスの知見も必要です。
このようにバイオものづくりのプロジェクトを進めるためには幅広い専門分野の知見が必要になりますが、日揮グループには必要なナレッジを持った様々な分野のプロフェッショナルが揃っています。自分だけでは解決できない問題に直面しても、彼らのナレッジを組み合わせていけば、必ず良いものを創り出せるはず、と前向きな気持ちでいられますね。
仕事のやりがい・面白さを感じる瞬間
――どんな時に仕事のやりがいを感じますか?
(大渕)これまで培ってきた知見を活かして、社会から必要とされている発展的な新しい技術開発に携われていることに大きなやりがいを感じています。国からも大きな支援を受けているのでプレッシャーもそれなりにはありますが、社会や人のため、環境のためになる大きな仕事をしているという実感を持って取り組むことができます。今まで以上に目標をしっかり見据えた研究が出来るようになったことが何より嬉しく、やりがいにもつながっています。
――もし大渕さんのお子さんが、日揮グループに入って同じ仕事をしたいと言ったらどうしますか?
(大渕)同じ会社を勧めるかどうかはさておき、この分野は今後の成長という点で期待が大きいので、良いと思いますよ。
――三木さんは、日揮グループでの仕事はいかがですか?どんな時にやりがいを感じますか。
(三木)私はもともとスケールアップをやってみたいという理由で日揮HDに転職してきたので、実際に機器の構成や調達に一から携わって、より具体的に自分の中でスケールアップに対する解像度が上がり、自分の成長を感じられるときですね。前職は、研究開発の中でも微生物を培養してデータを取る部分をメインにしていたので、それ以外の観点、視野がかなり広がったと感じています。また、他ではできないようなスケールの大きなプロジェクトにかかわっているということにもやりがいを感じます。
――自分の専門性を発揮できて、成長にもつながる、さらに規模が大きい仕事ができるといったあたりですね。小石川さんはいかがですか?
(小石川)これまでのキャリアでは下流側の仕事が中心でしたので、今、バイオものづくりのプロジェクト管理という立場で間接的に開発に携わる中での新たな気付きも多く、やりがいを感じます。今、「全く新しいプラットフォームを生み出す」という大きな目標に向けて技術開発を進めている中で、試行錯誤している技術が進捗したり、目途がついたりした時が、仕事をしていて一番嬉しく感じる瞬間ですね。
まとめ
今回の記事では、「バイオものづくり」の新規事業開発に携わる3人のメンバーに、仕事の内容や転職の理由、仕事でやりがいを感じる瞬間について話していただきました。インタビュー後半では、学生時代や日揮HDに入ってからの印象の変化、プライベートの過ごし方などについて聞いていきます。
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