【ツール別】スマート保安の実際の取り組み事例を紹介

【ツール別】スマート保安の実際の取り組み事例を紹介

目次

    昨今の産業保安においては「スマート保安」への注目が集まっており、テクノロジー技術を新たに導入する企業が増えつつあります。そこで今回は、「スマート保安」を実際の業務に取り入れている企業とその具体的な方法、また取り入れたことにより生まれた変化などをツール別に分かりやすく紹介します。

    スマート保安とは

    産業保安の維持や向上のため、テクノロジー技術を活用する取り組みのこと

    スマート保安とは
    ①国民と産業の安全の確保を第一として、②急速に進む技術革新やデジタル化、少子高齢化・ 人口減少など経済社会構造の変化を的確に捉えながら、③産業保安規制の適切な実施と産業の振興・競争力強化の観点に立って、④官・民が行う、産業保安に関する主体的・挑戦的な取組のこと。 (引用:経済産業省「スマート保安促進のための基本方針」

    経済産業省によると「スマート保安」は上記のように定義されており、産業保安の維持や向上のためにテクノロジー技術(スマート技術)を活用する取り組みのことをいいます。(参照:スマート保安官民協議会 ガス安全部会 「ガス分野におけるスマート保安のアクションプラン」スマート保安の技術は広範囲にわたる点検や異常検知と親和性が高いとされており、事故防止・事故予兆・故障予兆のほかにも、品質の安定や生産性の向上にもつながります。 

    (※スマート保安の特徴や保安面・収益面におよぼすメリット、また政府主体でおこなわれている国の取り組みなどはこちらの記事で解説しています。あわせてご覧ください。 )


    【ツール別に紹介】 スマート保安の取り組み事例

    ここではスマート保安における、ツールごとの取り組み事例をご紹介します。

    タブレット:テクノポリマー/日本曽達

    テクノポリマー 四日市事業所 

    化学品製造をおこなうテクノポリマーの四日市事業所では、運転情報の引継ぎやトラブルに関する情報を正しく共有するため「電子システム」を活用しています。 

    今までは紙媒体で伝達・情報管理をおこなっていましたが、電子化することで引継ぎ情報を事象単位で管理できたり、トラブルの発生から完了に至る経緯を速やかに確認できたりと、作業漏れ等の防止・ノウハウの蓄積や可視化に活かされています。

     

    日本曹達 二本木工場

    化学品等を生産する日本曹達の二本木工場では、製造現場での安全パトロール等に「タブレット」を活用しています。 

    従来の各種パトロールは、紙に記入した内容をパソコンに改めて打ち込んだり、カメラで撮影したデータを再度パソコンに読み込ませたりと、工程時における重複作業が目立っていました。しかし紙の代わりにタブレットを使用することで、その場での結果入力や撮影が可能となり、効率化を図ることができました。

    さらに、 パトロール結果を基とした報告書は自動で作成できるようになったため、以前より工数が削減されたほか、蓄積した過去の点検結果から改善状況の確認をおこなうことも容易になりました。 結果として、二本木工場では1年間で80人日の業務工数を削減できたことが明らかになっています。

    スマートグラス:東北電力ネットワーク

    東北電力ネットワーク 

    東北電力ネットワークでは、現場作業員がウェアラブルデバイスである「スマートグラス」を活用しています。 

    スマートグラスにはカメラが内蔵されており、巡視者がとらえた目線映像や音声を”リアルタイム”で遠隔地の電力センター支援者に配信できます。支援者は受け取った映像・音声にもとづいた適切な支援・アドバイスをおこない、巡視業務の効率化を図っています。

    ドローン:関西電力/三菱重工・中部電力

    関西電力 舞鶴発電所 

    関西電力の舞鶴発電所では、「ドローン」を活用した高所点検をおこなっています。 

    ドローンは、人間が点検しづらく、高所のため危険な煙突内部(煙道ダクト)や石炭サイロなどで使用していることから、作業における安全性が向上しました。同時に点検のための足場構築作業も不必要となり、保全コストの低減も実現しています。

    さらに、大規模工事がおこなわれる発電所では、大型資機材の配置が重要視されますが、ドローンを活用すると資機材の配置状況を効率的に確認でき、適切な置き場所の判断も可能になっています。

    三菱重工・中部電力 

    三菱重工は中部電力と共同し、「ドローン」を使ったスマート保安の実証実験をおこないました(場所:愛知県豊田市)。 中部電力では、山間部に位置するダムや発電所周辺の狭い道路、またアクセスが困難な箇所の現場確認を徒歩や車でおこなっています。しかし、確認時の安全確保や作業員の不足などが課題とされていました。

    実証実験では三菱重工が開発中のシングルローター型ドローン1機が使われ、高度35~50mを時速10~20kmで飛行させながら、搭載カメラによる現地の状況と人物確認、またスピーカー機能の音達確認を実施しました。

    結果として保安業務におけるドローンの有効性が確認できたため、今後はさらに山深い場所での長距離自律飛行や、安全な飛行に向けた施策を検討する予定となっています。 (参照:三菱重工「ドローンによる“スマート保安”実証試験」

    無線型センサー:昭和電工

    昭和電工 川崎事業所 

    化学品製造をおこなう昭和電工の川崎事業所では、「スマートバルブ」を導入しました。

    スマートバルブとは、センサー搭載のバルブとコンピューターを組み合わせ、設備を停止することなくバルブの状態を診断できるものです。当事業所には4,000~5,000個のバルブが設置されており、全バルブを定期的に点検するコストは大きく、計装機器に対する保安費用の20%に及んでいました。しかし今回導入されたスマートバルブによって、修理・交換が必要な部分だけを点検/修繕する「状態基準保全(CBM)」へ移行することができ、不要なメンテナンスが1割ほど削減し、コスト削減が期待できるようになりました。

    また、バルブの動作状況など、従来の点検では収集が不可能だったデータの取得が可能となったことから、異常を検知しやすくなり、新たな保安面でのメリットも生まれています。

    (※ここまでの各ツールの参照:経済産業省「スマート保安先行事例集」

    デジタルツール:日揮グローバル

    日揮グローバル 

    日揮グローバルは、プラントのリスク管理を見える化することでリスクベースプロセス安全管理のコアとなる「CoreSafety®」を開発しました。

    このソフトウェアは、イギリス原子力業界での使用実績を持つ事故想定シナリオ管理手法「フォルトスケジュール」がベースとなっており、

    • 高度な知識を必要としないシンプルなインターフェース
    • ライブラリー機能による簡単なセットアップ
    • Webブラウザを通して組織全体での共有が可能
    • 重点管理項目と管理状況を一括管理できる

    などの特長があります。

    既存のスマート保安技術では「データ収集」に特化したものが多いとされています。しかし「CoreSafety®」はリスクの「見える化」だけでなく、ベテラン技術者が必要なリスクアセスメントをサポートする機能、また保安部門以外でも可視化された情報を活用できることから、業務の合理化が可能になり、会社全体の効率的なスマート保安の実現が期待できます。

    デジタルツイン:ブラウンリバース

    ブラウンリバース 

    日揮グループのブラウンリバースは、3Dレーザースキャナーで撮影した結果をウェブ上で閲覧・管理できるクラウドサービス「INTEGNANCE VR」(インテグナンス ブイアール)を開発しました。

    この3Dレーザースキャナーは360度の撮影に対応しているため、ストリートビューのような操作感でプラント・工場全体の情報を把握することができます。 特長は「デジタルツイン技術」の活用で、仮想空間上にプラント等を構築する事により、現場をオンラインで簡単に確認ができ、保全業務の効率化や改革をサポートします。

    アノテーション(関連データがタグ付け)された各機器や部材の「相関関係」が3Dビューア上で可視化されるだけでなく、「空間シミュレーション」・「デスクトップ現況測量」・「配管ナビ」の3つの機能が備わっている点も特長の1つです。

    【3選】スマート保安を後押しする日本の取り組み

    最後に、より高度な保安の推進に向けて国がおこなっている「スマート保安を後押しする取り組み」をいくつか紹介します。

    スマート保安官民協議会の設置

    2020年6月に、官(経済産業大臣・関係局長)民(石油、化学、電力、ガス、鉄鋼、計装、エンジニ アリング、メンテナンス等の業界団体)のトップによる「スマート保安官民協議会」が設置されました。協議会では、スマート保安における基本的な方針を明確にしながら、重要性や取り組みの方向性を官⇔民で共有しています。

    具体的には下記の取り組みをおこないつつ、スマート保安を活用した安全性の向上や企業の自主保安力の強化を実現を目指しています。(引用:経済産業省「スマート保安官民協議会の設置について」

    官(政府)
    民(企業)
    ●技術革新に対応した保安規制・制度の見直し<テーマ例>・ドローンを検査規格に位置づけ・遠隔監視による高度化・効率化

    ・AIの信頼性評価のガイドライン

    ●スマート保安促進のための仕組み作り・支援(事例の普及・表彰制度・技術開発支援など)

    ●IoT/AI等の新技術の 開発・実証・導入<テーマ例>・巡視ドローン・ロボット導入・IoT/AIによる常時監視、異常の 検知・予知

    ・現場の効率化、人員の代替

    ●スマート保安を支える人材の育成

    スマート保安導入支援事業費補助金

    経済産業省では、「スマート保安導入支援事業費補助金」を実施する補助事業者を募集する取り組みをおこなっています。 令和4年度・令和5年度ともに公募期間を設定したうえでの募集となっており、公募要領で定める条件を満たす事業者は応募が可能です。

    この補助金は、産業インフラ(電力・ガス・コンビナートなど)の中堅・中小企業が、スマート保安の導入に関する計画策定をおこなう「間接補助事業者」に対して、費用の一部を助成するものです。

    詳細は経済産業省のホームページ「スマート保安(スマート保安 (METI/経済産業省) )」からご確認ください。

    スマート保安アクションプラン」の策定

    経済産業省は、2020年からスマート保安に役立つ新技術や同技術にまつわる規制・制度の見直しをおこない、 「高圧ガス保安分野 スマート保安アクションプラン(2020年) 」や「電気保安分野 スマート保安アクションプラン(2021年)  」を策定しました。

    官・民それぞれの具体的なプランが提示され、プランに基づく取り組みを実施しながら、石油や化学プラントの安全・効率性の向上を目標としています。

    まとめ

    今回は、スマート保安における実際の事例を詳しくご紹介しました。 「スマート保安」にまつわる関連記事は下記の通りです。ぜひあわせてご覧ください。


    サステナビリティハブ編集部

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